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約1GW/年増が物理的限界か

 一方で、洋上風力発電事業を手掛けるには、前述のようにまず促進区域を指定し、しかもそこで事業者として認定されなければならない。経済産業省が想定する促進区域は2030年時点で約30カ所。1カ所は平均で350MW規模だとすると、ちょうど10.5GWになる。港湾区域分を含めても11GW止まりである。つまり、2023年以降約1.3GW/年のペースで導入するのが限界になる。

 2030年に11GW程度ではとても産業界の“ニーズ”を吸収できない。先に挙げたレガシー企業の計画値の合計28GW以上の実現も無理である。実は2020年6月までは、経済産業省は稼働している促進区域を2030年時点で5カ所程度としていた。つい最近の2020年7月にこれを大幅に増やして30カ所にした経緯がある。ただし、焼石に水だ。

 日本風力発電協会によれば、洋上風力が2030年に10GW程度という設定は港湾インフラなどの物理的限界を考慮したものだとする。「現状では、洋上風力用の大型風車を扱える港湾は日本では少なく、約1GW/年のペースがインフラ上の物理的限界。港湾設備などの増強が追い付いてくる2030年以降になってようやく2G~4GW/年のペースに増やせる」(同協会)。

浮体式風車に大きな可能性

 つまり、産業界の期待と実際に導入可能な設備容量には当面、大きなギャップがあるわけだ。このままではレガシー企業や海外企業などの巨額投資の機運も急速にしぼんでしまいかねない。

 ただ、この限界をある程度回避できる可能性も見え始めている。浮体式洋上風力発電だ。

 浮体式の洋上風力発電は、風車を海上に浮かせて係留ロープなどで固定して発電させるシステムである。風車を海底に直接固定する着床式がおよそ水深50mまでしか対応できないのに対し、浮体式は水深200mにまで対応できる。つまり、利用可能な海域の面積が大幅に増えるのである。

 環境省が2012年に発表した風力発電の導入ポテンシャルでは、陸上風力が60G~300GW、着床式洋上風力が5G~310GWであるのに対して、浮体式洋上風力は56G~1300GWと非常に多い(表3)。600GWも導入すれば日本の電力需要量ほぼすべてを賄えてしまう。

表3 浮体式は着床式の4~10倍の可能性(2012年、環境省調べ)
設置場所 風力発電の導入ポテンシャル
陸上 賦存量 1400GW
導入可能量 60G~300GW
洋上 賦存量 7700GW
導入可能量 61G~1610GW
着床式 5G~310GW
浮体式 56G~1300GW

 ところが、経済産業省が想定する30カ所の促進区域のうち、第1号の長崎県五島市沖以外はほぼ着床式を想定しているもようだ。言い換えれば、浮体式を想定すれば、促進区域の数を大幅に増やせるのである。沿岸から遠く離れれば、漁業関係者などとの利害調整の上でも有利に働くはずだ。

 浮体式風車の場合、後述するように設置の手順や手法が着床式風車とは異なってくることも、限界を回避する可能性につながる。