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電子機器において、構成する各部品の使用温度範囲や機器としての温度範囲が守られるように設計する「熱設計」。小型化、開発期間短縮などにより、熱設計の難易度は高まるばかりです。クルマ以外でも電子化が進み、熱設計に配慮すべき分野も広がってきました。車載機器の熱設計を例に、その課題と最近の取り組みについて、現役熱設計者が解説します。(本誌)

 寒い夜、夕刊を読みながら湯船に浸かる。「ちょっとぬるいな…」紙面に目を落としたまま「HOT」の蛇口をひねると、「あつっ!」。浴槽の蛇口側では熱い湯が皮膚を突き刺すように刺激する。慌てて両手で渦を作り安堵した。この温度を下げる仕組みが熱拡散である。個人差はあるが、人間の動作温度範囲は35~37.5℃程度。湯温の最大定格は42℃程度だろうか。許容範囲であるΔTは約7℃と狭い。

 「温度」と「熱」はどう違うのだろうか。温度は一般に寒暖の度合いを示したものと定義されている。例えば2つの物体が接触したとき、それぞれの温度を比較して「熱い」「冷たい」と言える。そして熱とは、温度の高い系から低い系に移動するエネルギーの形態と定義できる。いかにこのエネルギーの移動をコントロールするかが熱設計の醍醐味だ。地味な技術だが、昨今の電子機器はこの熱設計が良し悪しを決める大きな要因となっている。

 中でも熱設計の重要度が増している分野の1つが、自動車分野である。今日の自動車技術は、環境配慮、快適運転、安心・安全に向けた自動運転などの技術が重要になっている(図1)。それに伴って機械制御で駆動していたアクチュエーターが電子制御に移行している。制御用コンピューター(Electronic Control Unit、以下ECU)の搭載数が増加したことで、ECUへの小型化要求が強くなっている。電子制御の高度化により駆動周波数は増加しており、電子製品設計の中で熱問題は避けては通れない。

図1 自動車の電子制御ECUは急速に進化している
図1 自動車の電子制御ECUは急速に進化している
(出所:デンソー)
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 そもそも、自動車ではエンジンECUが搭載されるエンジンルーム内は温度が100℃以上に上昇し、電子機器にとって厳しい環境である。半導体が故障に至るとされる温度保証上限は半導体チップ温度を表すジャンクション温度(TJ)150~175℃であり、電子制御による温度上昇はこの閾値以内に抑える必要がある。そこへECUの小型化と駆動周波数の高周波化が重なり、実装されている半導体の発熱量および発熱密度(単位面積当たりの消費エネルギー量)の増加への対応が熱設計上の課題となっている。