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自動車のECU(Electronic Control Unit)の小型化が進んだ。結果、急浮上してきている問題が発熱量・発熱密度の増加による温度上昇です。ECUきょう体だけでの放熱対策だけでは不十分であり、発熱源の半導体周辺の冷却に着目した熱設計が必須となっています。今回は、半導体の発熱の中でも近年注目されている過渡現象について見ていきます。

 多くの企業にとって、車両用の電子制御機器における熱設計ではCAE(Computer Aided Engineering、コンピューターを使ったシミュレーション)活用が必須となっている。これまでは主に、定常現象の範囲でCAEが活用されてきた。

 一方、近年問題となっているのが過渡現象の解析だ。時間変化を伴うスイッチングロスのような過渡の発熱の影響が大きくなり、実装された全半導体の電気と熱の特性を満足する設計が必要とされるようになってきた。このような電気と熱を連携させた検証を可能とする解析への要求が急増している。

 実際のところ、過渡現象の解析事例は既に少なからず存在している。ただし、熱の過渡現象の解析は計算負荷が大きいという最大の課題により敬遠されており、現象の簡易化や解析範囲の限定などを行って利用する場合が多かった。それが最近では解析ツールと計算機の能力が進化したことで、過渡解析を利用した大規模な解析例が急速に増加している。

 過渡現象の解析には、様々なサンプリング時間を考慮する必要がある。例えば、ECUに実装される半導体デバイスであるMOSFETの発熱は、スイッチングロスが大半を占めており、µsオーダーの過渡現象を解析する必要がある。また、車両の搭載環境において、デッドソーク(ラジエーターファン停止後のエンジンルーム温度の上昇)の検証には数十分単位の過渡現象の解析が必要だ。このような解析対象となる時間レンジが広範囲に及ぶ過渡解析は、計算負荷が軽い方が良い。業務効率を考えれば、計算負荷の軽い熱回路網を用いた1次元熱シミュレーションと連携するモデルが必要である。このモデルでは過渡熱抵抗の扱いが肝となる。

熱回路にも時定数

 電子回路では、電流を流し始めて定常電流の63.2%になるまでの時間を「時定数」という。熱回路でも同様に熱流が発生し、初期温度から最終到達した定常温度との差の63.2%になるまでの必要時間を「熱時定数」という。熱時定数τとは熱抵抗Rthと熱容量Cthで決定し、電子回路と同様に求められる。例えば、電子部品の体積が小さくなるほど、ECUを小型化するほど、熱時定数は小さくなり応答速度が速くなる。

 一般に時定数や熱時定数は、電磁気学の場合はµs~msオーダー、機械工学の場合はms~sオーダーの事象であることが多く、解析時間の規模が異なる。従来、熱工学は機械工学分野の1つとして扱われてきた経緯があるが、半導体の短い電子制御時間を過渡温度として表現することは、機械工学とは異なる工学分野であると考えた方が良い。さらに、半導体メーカーから過渡熱抵抗グラフは提出されているものの、素子の比熱や密度の物性値といった情報の開示や整備はこれからであるため、現時点ではモデリングを深化させにくいという課題が生じている。

熱伝導より熱抵抗

 ではまず、熱抵抗Rthと熱容量Cthから見ていこう。

 MOSFETなどの半導体部品に電圧がかかると電流が流れ、内部の電気抵抗によって発熱する。部品を構成する樹脂などの絶縁材料が熱の出入りを遮るため、熱は内部にたまっていき、いずれ局所的に熱くなりホットスポットができる。その熱の伝わりにくさを表すのが熱抵抗で、物体の任意の2点間における単位発熱量(1W)当たりの温度上昇量と定義されている。単位は℃/W(温度差/発熱量)である注1)。数値が大きいほど熱は伝わりにくい。

注1)熱抵抗の単位は「K/W」とする場合もある。温度差の単位を摂氏温度(℃)とするか、絶対温度(K、ケルビン)とするかの違いによる。ただし、摂氏温度と絶対温度は「0度」の基準点は違うが大きさは等しいため、温度差としてはどちらの単位を使っても同じ値となり、熱抵抗の数値も同じとなる。

 熱解析では物質特性の1つである熱伝導率(単位はW/(m・K))を入力値にするのが一般的だが、エレクトロニクス製品設計の現場では熱抵抗で表現することが多い。どのくらい熱が逃げにくいかを数値で表現でき、放熱のネックとなる部材が分かりやすいからだ。特に、電子回路設計者は見慣れた”抵抗”で表現する方がわかりやすいのであろう。熱の法則も、電気のオームの法則と同様に置き換えることができる。電圧は温度差、電流は熱流、電気抵抗は熱抵抗に相当する。

 半導体素子では熱抵抗が一般に使用されており、「θjc」「θja」と呼称される。θjcは半導体のジャンクションからケース(パッケージ)表面までの熱抵抗、θjaはジャンクションから周囲環境までの熱抵抗を表す。

 熱容量Cthは、ある物質の温度を1℃上げるために必要な熱量のことを言い、単位はJ/Kを用いる。例えば、水と油のように熱容量の異なる物質では同一の熱量を与えたときの過渡的な温度変化が異なる。熱容量が大きいということは熱しにくく、冷めにくい。