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電子機器の熱解析は定常解析が一般的だが、車載機器ではここ最近、時間変化を伴うスイッチングロスのような過渡の発熱を捉える必要が急速に高まっている。これまでに過渡発熱量を導出する手法や過渡熱抵抗を測定する手法などを紹介してきた。今回はこれらを利用した、確度の高い過渡熱解析用半導体熱モデルについて解説する。

 エンジンECU(Electronic Control Unit)が搭載されるエンジンルーム内の温度は、100℃を超える。MOSFETなどの半導体が故障に至るとされる温度保証上限はジャンクション温度(以下、Tj)で150~175℃とされており、温度上昇をこの閾値以内に抑える必要がある。先進的な自動運転などを含めた統合車両制御では、ミリ波、マイクロ波といった高周波駆動の回路が要求され、過渡熱による温度上昇が課題となる。

 例えば、制御により高速駆動して発熱する半導体は、スイッチングロスが生じる単位時間当たりの回数増加により、高温になる(図1)。1回のスイッチングで温度の上昇下降を繰り返し、スイッチングを続けると平均温度も上昇する。駆動周波数の是非を検討するためには、1回のスイッチングにおける短時間の温度上昇を精度よく見積もる必要がある。そうすれば、上昇する平均温度に問題ないかを確認でき、瞬間的にTjを超えることがないかも判定できる。さらにスイッチングを止めれば過渡的に温度が下がるため、制御をどこまで緩和すればいいかを検討できる。これは、制御コントローラーを設計している技術者は非常に強力な武器になる。OEM(自動車メーカー)から要求される制御スピードの良しあしをタイムリーに回答できる。

図1 自動運転の駆動とTj
図1 自動運転の駆動とTj
(出所:デンソー)
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 このスイッチングロスによる発熱には、ターンオン/オフ時間などが寄与しており、発熱を見積もるには時定数τの精度が必要である。発熱の大きさに関わる熱抵抗と、時間に関わる熱容量の把握が熱設計のポイントとなる。ただし、従来は温度が上昇しきった定常状態に対する熱解析(定常熱解析)を行うケースが多く、回路が駆動している際の時間変化に応じた過渡熱解析は少ない。理由として、過渡熱解析には半導体内部の正確な寸法や熱伝導率・比熱・密度といった物性値が必要であり、これらの情報は半導体メーカーのいわば競争領域に関する情報であるため入手が難しいという課題があった。今回は、こうした課題を回避しつつ、過渡熱解析を実現する方法を紹介する。