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世界の3次元データを取得し、活用できる時代が到来しつつある。けん引するのは、GAFAなどの巨大IT企業や国家だ。前者は主にユーザーに周辺情報を取得させ、クラウドのサービスにつなげることを狙う。後者は人工衛星などから得た地形データや建築データを公開する。システム同士が3次元データを基に対話を始めることで、最適化社会が生まれる。
現実世界の物体が持つ形状に加え、色や素材など、様々な情報をコピーした世界─。そんな「複写世界」とも呼べるデジタルデータ空間が、今後、急速に拡大しそうだ(図1)。そのけん引役は、米国の巨大IT企業、いわゆるGAFAだ。
図1 デジタルデータとして世界を写し取る
世界のデジタル化とデータ活用の概要。まず物理的な現実世界を各種センサーを用いてセンシングし、デジタルデータとして写し取る。複写世界上では、例えば仮想的な実験や精度の高いシミュレーションが可能になる。その結果を現実世界にフィードバックすることで、超効率な社会を生み出す。(図:日経クロステック)
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米Appleは、2020年3月発売の新型「iPad Pro」に、LiDARセンサーを搭載した(図2)。このLiDARによって数m先の物体であれば距離画像を取得できる注1)。LiDARの活用でまずは狙うのは、AR(Augmented Reality)だ。仮想オブジェクトをAR表示する際には、自端末の位置と方向を把握する必要がある。そこでLiDARで取得した周囲の点群データと、「Apple Maps」用に収集した3次元(3D)マップを照合して自端末の位置を検出する。
(a)背面にLiDARを搭載した新型iPad Pro
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(b)iPhoneでスキャンした3Dデータ
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図2 消費者向け端末に高性能LiDAR、3Dデータ作りの民主化が始まる
2020年3月に米Appleが発売した新型「iPad Pro」(2020年版)(a)。背面にLiDARスキャナーを含む3眼のカメラ部を持つ。 「iPhone 11 Pro Max」で編集部の「aibo」をスキャンした3Dデータ(b)。LiDARと同様に距離画像センシングが可能なFace IDを用いれば、手軽にスキャンして3Dデータを出力できる。(写真:(a)左はApple、(a)右は加藤 康、(b)は日経クロステック撮影)
注1)実は、以前からiPhoneの顔認証用に搭載されているFace IDも、同様に距離画像センサーの機能を持っている。Face IDを使って3Dスキャンは可能だった。しかし、センシング距離が短いため、卓上の小物程度しか3D化できなかった。
ただし、LiDARの活用はARにとどまらないとみられる。例えばAppleは、LiDARが計測した深度情報を、アプリ側からピクセル単位で利用可能にするAPIを提供している。このAPIを用いて、LiDARで空間の3次元データを取得する開発者も現れてきた。今後、Apple自身が3次元データの流通に乗り出してくる可能性が高い。