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人間に幸福をもたらす「ハッピーテック」が、日常生活の様々なシーンに実装される未来が近づいている。センサーやAI(人工知能)などの技術を活用し、製品やサービスを利用する人の感情に応じて「個別最適化(パーソナライズ)」する技術だ。ハッピーテックは新しい製品・サービスを生み出し、開発の在り方も変えるインパクトを持つ。

 図1は、「ハッピーテック」が社会の様々な空間や場所に実装された未来の一端である。自動運転車の車室内では、乗っている人の感情を読み取って状況に適した音楽を再生したり、街中ではサイネージに表示する広告の内容を、見ている人の関心度に応じて変えたりする。

図1 感情ドリブン時代の到来
図1 感情ドリブン時代の到来
これまでのように多くの人(マス)に向けて画一的な製品・サービスを提供する時代は終わりを迎え、ユーザー個々人に最適なものを提供する未来が近づいている。その根幹を支える技術が「感情推定」だ。利用シーンとして(1)街、(2)車室内、(3)学校、(4)スタジアムが挙げられる。例えば、下記のような活用法がある。(1)街中のデジタルサイネージでそれを見ている人の関心度を分析して表示する広告を変える。(2)自動運転が普及する将来には、車室内の雰囲気を分析してそれに合った音楽を流したりする。イラストでは夫婦が険悪な状況になっているので、2人を落ち着かせる音楽を流している。(3)勉強している子どもの表情から理解度などを推測して学習内容を調整する。(4)スタジアムで観客の盛り上がり度を分析し、試合の合間に提供するイベント内容を調整する。(イラスト:楠本礼子)
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 学校の教室では、授業中に生徒たちの反応をカメラなどで撮影し、表情や仕草から感情をシステムが推定。その情報から、生徒個々人に合った授業の解説や演習などを提供する。例えば、生徒が内容を理解できず「困惑している」ようなら、授業の分かりやすい解説を送ったりする。一方で簡単過ぎてモチベーションが下がっていると判断すれば、難易度がやや高い演習問題を送るといった具合だ。

 製品やサービスの利用者に幸福感や満足感をもたらすハッピーテックの中核技術が「感情推定」である。カメラやセンサーで人間の表情や生体データ、行動などを捉え、そのデータを分析して喜び、怒り、悲しみ、戸惑いなどの感情を類推する。

 今、様々な企業や研究機関が図1に示したような未来の実現に向け、感情推定技術の開発にまい進している。いわば「データドリブン」ならぬ、「感情ドリブン」による開発時代の到来である。