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パナは幸福追求の新組織

 パナソニックは感情推定技術の家電製品への応用に向けた開発を進めている。それに加えて、2019年に「人間の幸福(Well-being、ウェルビーイング)」注1)の提供を目指す新組織「Aug Lab」を設立した。同組織を率いる同社マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括の安藤健氏は「例えば『ものを大切にする』というような感情に着目したとき、それをどう引き出せばいいのか、そもそもそんな感情があるのかも分かっていない。ただ当社はそのような感情をまず言葉などで定義し、五感をどう刺激し、行動にどう影響を与えれば得られるのかを確かめていきたい」と話す。さらに、「その開発を通してユーザーに負担を与えることなく楽しみや幸福を提供できる製品を生み出したい」(同氏)とする。

注1)世界保健機関(WHO)憲章が定義する「肉体的にも精神的にも社会的にもすべてが満たされた状態」のこと。

 Aug Labでは現在、人間の感性に訴求することを狙った製品を開発している(図6)。例えば、室内で風がそよぐ様子を再現する空間型デバイス「TOU」は、磁性を有する表面材、電磁石、風を検知するセンサーで構成され、センサーで室外の風をセンシングし、風に合わせて電磁石の強弱を変えて表面材が揺らぐようにする。現時点では感情推定技術を搭載しているわけではないが、「ぼーっ」と過ごせる空間を生み出すことで、人の思考力・創造性の支援を目指している。

(a)風がそよぐ空間を創造する「TOU」
(a)風がそよぐ空間を創造する「TOU」
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(b)コミュニケーションロボット「babypapa」
(b)コミュニケーションロボット「babypapa」
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図6 パナソニックは人間の幸福の実現を目指す研究組織を設立
2019年に「人間の幸福」の実現を目指す研究組織「Aug Lab」を設立した。開発品には、風がそよぐ様子を再現する空間型デバイス「TOU」(a)、コミュニケーションロボット「babypapa」(b)などがある。パナソニックはTOUを、テクノロジーとデザインを組み合わせた製品の開発を手掛けるKonelと共同で製作している。babypapaは子供向けのロボット。3体・1セットで、歌ったり、笑ったりなどの表現を通して子どもとの関係を構築。ロボットの腹部にカメラを搭載しており、親の代わりに子どもの自然な姿を日々撮影する。(写真:パナソニック)

 感情推定技術の開発が活発化するなかで、脳情報の活用に対する関心も高まっている。その一端が、2010年から任意団体として活動を続けてきた「応用脳科学コンソーシアム」が2020年9月に一般社団法人として生まれ変わったことである。脳情報の産業利用を進めるために組織を整えたという。同コンソーシアムには、NTTデータやNTTデータ経営研究所、旭化成、DIC、アサヒクオリティーアンドイノベーションズなど、さまざまな業種の企業が参加しており、脳情報通信融合研究センター(CiNet)を含めた研究機関と連携していく。

 応用脳科学コンソーシアム理事・事務局長の萩原一平氏は「多数の人の満足度を高める上で脳情報の重要性が高まっている。パーソナライズ化した製品・サービスを人々に提供していくためには、個人ごとの無意識な欲求を捉える技術を生み出す必要がある。参加企業各社で強みを持ち寄って協力していきたい」と意気込む。

 アサヒグループホールディングスの研究機関であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズも同組織に参加する企業の1社だ。同社が期待するのは脳科学を通じて、人間の感性・感情をより直接的に取得できるようになることだ。官能評価で取りこぼしていたデータを可視化することで、消費者が本当に好む飲料開発につなげる狙いがある。