様々な業種の企業が感情推定技術を利用した製品・サービスの開発を進めている。ゴールは、ユーザーに幸福感や満足感を与えることだが、そこへのアプローチは各社各様だ。技術の進化によって感情推定に対する敷居は下がったが、その結果をどのようにユーザーにフィードバックしていくのかなど、今後の検討課題も多い。最新の開発事例を見る。
車室内、住居、オフィス、駅、学校、街……感情推定技術を導入できる空間は身の回りにたくさんある(図1)。ユーザーにはこの技術の存在が見えにくいものの、将来は日常生活に不可欠な技術になる可能性がある。
ここでは利用シーン・空間ごとに、各社がどのような技術適用を狙っているのかなどを紹介する。
車外だけでなく車室内もセンシング
ここ十数年の自動車の進化の中心は、衝突被害軽減ブレーキをはじめとするADAS(先進運転支援システム)にある。自動車が搭載するカメラやセンサーで周囲の状況を把握し、ドライバーに的確に表示・警告したり、ドライバーに代わって自動車を制御したりする。
2020年代に発売される近い将来の車は、さらに車室内をセンシングする機能を標準で搭載するようになる可能性がある。例えば欧州では、自動車アセスメントを担う「Euro NCAP」が、2022年に幼児放置検知機能を試験項目に加える。自動車内への幼児の置き去りを防ぐための機能である。米国でも同機能の導入を支持する動きが活発化している。
その機能を実現するためのセンサーとして有力視されているのが、60GHz帯のミリ波レーダーだ。60GHz帯は車室内での利用が可能で、距離分解能が2.14cmと高いからである。60GHz帯のミリ波レーダーを開発するインフィニオンテクノロジーズジャパンの浦川辰也氏(パワー&センサーシステムズ事業本部センサーシステムズ&IoTシニアマネージャー)は「自動車内に人がいるかどうかの『存在検知』、乗車人数を把握する『乗員検知』、生体データを収集する『バイタルセンサー』注1)などで同レーダーの利用が進む可能性がある」と話す(図2)。
こうした車室内空間センシングの標準搭載化は、自動車への感情推定技術の導入を後押しする。例えば60GHz帯のミリ波レーダーで身体をセンシングすれば、心拍や呼吸の状態を捉えられる。