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1気圧では体積密度が低く貯蔵や運搬などの取り扱いに困る水素。よりコンパクトな材料「水素キャリア」に変換して使うことで扱いが楽になる。ただ、その選択肢はいずれも一長一短。基本は用途に応じた使い分けになるが、少しでも多くのシェアを取ろうと、各キャリア陣営の競争が始まった。この競争から従来の常識を超える使い方や技術革新も生まれつつある。

 2050年ゼロエミの実現に向けて、社会の中で水素が非常に重要な役割を担う。その役割は、電力の平準化やエネルギーの貯蔵手段、そして化石燃料に代わる燃料、石油や鉄鋼の精錬材料などと非常に幅広い。

 ところが、水素をガスのまま使おうとするとすぐに壁に突き当たる。水素は1気圧の下では気体であり体積密度が低い。つまり非常にかさばり、貯蔵や運搬に向かない。そこで、貯蔵や運搬時に一度、「水素キャリア」という別の状態や材料に変換し、利用時に再び水素に戻して使う方策が考えられている。

種類は多いが一長一短

 候補となる水素キャリアの種類は非圧縮の水素自身も含めて大きく6種類(表1)。メタン(CH4)など既存燃料の合成版も含めれば7種類以上になる(合成燃料については、「CO2資源化編」参照)。

表1 水素キャリア各種の比較
(データは日経クロステック調べ)
表1 水素キャリア各種の比較
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 数が多いのは、各水素キャリアの特性が一長一短で1つに絞り切れないためだ。例えば、コンパクトさ(体積密度)ではアンモニア(NH3)や水素吸蔵合金が優れているが、NH3は水素からの変換時に約3割のエネルギー損失があったり、人体に有害で悪臭があったりする。水素吸蔵合金は重い、といった具合だ。

 現時点で、すべての点で優れた圧倒的に有利な水素キャリアはないため、用途に応じて使い分けるというのがこれらを扱う事業者の意見で多いようだ。

 ただし、特定の水素キャリアに利用が集中したり、課題を解決する技術革新をきっかけに急速に一本化が進んだりする可能性もある。どの水素キャリアが主流になるかによって、必要とされるインフラや技術、そして我々の社会の在り方も大きく変わってくる。これから、各水素キャリアの特徴や課題、将来性を見ていくことにする。