日本の家電業界で海外企業への事業売却などが相次ぐなか、唯一の総合家電メーカーとして気を吐くパナソニック。同社も中国企業などの攻勢にさらされるなか、2018年には家電メーカーから「くらしアップデート業」への転身をビジョンとして打ち出した。巨艦・パナソニックは今後どう変わるのか。生活家電事業を統括するアプライアンス社副社長の堂埜 茂氏に聞いた。

まず、家電市場に対する現状認識をお聞かせください。昨今では中国メーカーなどの攻勢に対して、日本企業の世界での存在感が薄れています。
確かに中国メーカーは、非常に安い価格で世界のさまざまな地域でビジネスを展開しています。東芝やシャープといった日本の伝統的なブランドの背後に、中国や台湾の企業の存在があるという危機感も抱いています。
ただし、生活家電は、テレビなどとは事情が大きく異なります。中国勢も含めて、本当の意味でのグローバルプレーヤーは存在しません。それぞれの企業ごとに得意な地域があるからです。社外の方とお話をすると、「テレビ事業が大変だから冷蔵庫や洗濯機の事業も大変ですね」みたいなことを言われたりしますが、この点は多くの方が誤解しています。白物家電はそれぞれの製品分野で異なる基本技術があり、さらに地域によって戦い方も異なります。我々の「立地」はまだまだ悪くないと考えています。
世界シェアの数字で見ると中国勢がかなり強い印象を受けます。今後、パナソニックは世界シェアを追い求めるのでしょうか。
世界全体のトップシェアは目指さないし、目指すべきではないと考えています。我々が得意とする地域において、IoTやAIなどを活用しながら「新しい価値」をユーザーに届けます。ユーザー・流通、そして我々メーカーの“三方良し”を実現できる地域に選択と集中をするのが基本戦略です。その地域においてはシェアにもこだわります。
具体的に御社が注力する地域はどこになりますか。
日本、中国、東南アジアの一部地域。それから、私たちが強みを持っている中南米、そして製品カテゴリーによっては欧州も入ってきます。
御社の製品における「新しい価値」とは何で、それをどのようにユーザーに届けていくのでしょうか。
生活家電の根幹は“枯れた技術”ですが、IoTでインターネットにつながることによって新たな価値を提供していきます。ただし、「この家電はスマホとつながります」というだけではユーザーの琴線に触れません。つながるが故の価値を、きちんと考えていかないとダメです。
2018年に、社長の津賀一宏が創立100周年の記念イベントで「くらしアップデート」という新コンセプトを披露しました。これこそまさに、ユーザーに寄り添うための1つのキーワードです。具体的には、これまでの生活家電はユーザーに良かれと思い、あまたの機能を搭載してきました。しかし、300個も、400個も入っている機能のうち、現実にはパワーユーザーでもせいぜい5個か6個ぐらいしか使っていませんでした。
ならば、すごくシンプルな機能をまず提供し、ユーザーがどんな機能を何時に使ったのか、どれぐらいの時間帯をそれに占有したのか、といったデータを取って分析すれば、そのユーザーに対して追加しなければいけない機能がおのずと分かります。そこで後日、ネット経由でその機能をダウンロードしてもらい、個々に合った「カスタマイズ家電」にしていく。見た目は同じだけど、中に入っている機能はユーザーごとに変わるわけです。
これは機能の話ですが、例えば電子レンジや冷蔵庫であるなら、主役は食材になるので、IoTは食全体の困りごとの解決に活用できると考えています。冷蔵庫の在庫を管理して、重たいミネラルウオーターやビールなどが品切れしていたら、提携しているEC(電子商取引)サイトから自動的に配達されるといったサービスが考えられます。
パナソニックはこれまで生活家電事業を長年手掛けてきて、暮らしの知見を豊富に持っています。ただ、今後そうした知見をよりカスタマイズしてユーザーに提供していくためには、やはりIoTを介して使用状態のデータを取得・分析する必要があります。こうした分析を通じて、我々が提供してきた機能が実際に使われているのかが分かりますし、取得したデータは次の商品企画や開発に活用して商品を磨き上げることにも使えます。