中国勢が先行するスマートホーム
ドイツの調査会社Statistaは、スマートホームの世界市場は今後5年で約2.3倍に成長し、約18兆円規模になると予測する。こうしたスマートホーム化の動きは、iRobotに限らず多くの海外メーカーで活発化している。
大型家電の販売台数で12年連続世界トップの中国ハイアールグループは、スマートホームにおいて頭一つ抜き出ている存在だ(図9)。「当社は家電製品を設計・製造・販売する家電メーカーから、プラットフォームを運営する会社へと変化し、そこからIoTによるエコシステムを創る会社へ変わろうとしてきた」(ハイアールグループ副総裁でハイアールジャパンリージョンCEOの杜鏡国氏)。
スマートホームでどのように生活が変わるかは、使い始めてみなければ実感できないという場合も多い。そこでハイアールは、IoT家電やそのエコシステムがもたらす新たな生活をユーザーに分かりやすく体験させるために、中国・上海に巨大なショールームを開設した(図10)。ショールーム内には、リビングや寝室、キッチンなどの部屋ごとに、十何個もの“家”を作ってスマートホームの見本とした。ショールームを見に来たユーザーは、スマートホームを導入すれば今後どんな生活ができるかを感じられる。
取り残される日本は課題が山積
IoT家電の潮流が世界で大きくなる中で、日本は出遅れているのが現状だ。背景には、日本の家電メーカーの開発部門に、IoT家電に精通した人材がそろっていないという事実がある。まず足りないのは、製品本体も含め、提供するサービス全体の設計を担当できる人材だ(図11)。
IoT家電では、従来の生活家電以上にサービス設計やユーザー体験の質が求められる。生活家電が「技術志向型」から「課題解決・体験型」へと移りゆく中で、サービスがどんな価値を提供できるかを最重要視しなければならない。既に日本メーカー各社が、市場のニーズを中心とした顧客志向の製品開発に方向転換しようとしているものの、こうしたデザイン設計ができる人材が足りなければ、戦えるサービスは提供できない。
例えばShiftallは、サービス設計優先の家電作りを進めている。同社は、やってみなければ分からないニッチな領域のサービス作りや、サービスにおけるシーズドリブン方式での製品開発を続ける。「親会社のパナソニックが市場のニーズドリブンで進めるので、Shiftallは別動隊のような立ち位置。ハードを0円で提供するサブスク型のビジネスモデルのサービスも予定している」(岩佐氏)。
一般に「ITエンジニア」と呼ばれるような人材も不足している。サービスを使いやすくするためにスマホアプリの開発やクラウドサービスの構築などを担う人たちだ。加えて、より高度な処理をするAIのアルゴリズム設計や、カメラなど複数のセンサーから取得される大量のデータ処理を担当する人材も必要となる。
こうしたソフト人材が、ハードを作る家電メーカーの開発部門に足りない。従来の生活家電にも組み込みソフトを担当するエンジニアは存在するが、担当領域がかけ離れてしまっているのだ。
中国Xiaomi(シャオミ)やハイアールなど、IoT家電を得意とする海外メーカーは、こうした人材の確保と育成を迅速に行ったことで、この分野でトップを走り続けている。
バルミューダのクリエーティブディレクターなどを務めるプロダクトデザイナーの和田智氏(SWdesign代表)は、「次世代の課題に対して、どう人材を整えられるかという意味で、最もクリエーションが必要になるのは『人事』だ」と指摘する。
周回遅れの日本メーカーは、これらのエンジニアを擁する社内の別部署と横串を刺して連携したり、外部から人を雇い入れたりして、新しい時流に合わせた人材をそろえていかなければならない。