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上海の街の風景
上海の街の風景
(写真:博報堂生活綜研(上海)、2020年11月撮影)
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「IoT家電先進国」と言われる中国。既に生活家電の多くがインターネットにつながり、ユーザーはスマートフォン(スマホ)で遠隔から操作したりすることが一般化しているという。しかし、その実態は日本にはあまり伝わってこない。中国に拠点を構える博報堂生活綜研(上海)の鐘鳴氏と山本哲夫氏に、中国IoT家電の最新事情を報告してもらう。

 「私が出張で家を留守にするときは、主人の様子をスマホでチェックしています。セキュリティーカメラの映像を見てどんな格好をして出かけたかなども。この前は洗濯機のアプリで深夜2時に突然稼働したことを知って驚き、夜更かしはダメと注意しました」

 これは博報堂生活綜研(上海)が実施している、中国人のスマホ生活の調査で、杭州に住む30代の女性から聞いた話だ。中国人には「人とつながりたい欲求が強い」という国民性がある。この女性は出張中に家族のことが気になり、そのために家電のIoT機能を使ったりするという(図1)。ちなみにこの女性の自宅では、中国ハイアール(Haier)の高級洗濯機を使っている。

図1 IoT家電のスマホアプリで遠隔操作しているイメージ
図1 IoT家電のスマホアプリで遠隔操作しているイメージ
杭州在住のあるユーザーの家庭を訪問調査した際に撮影した写真。(写真:博報堂生活綜研(上海)、2020年8月撮影)
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 この事例はやや特殊なものとも言えるが、中国ではインターネット接続機能を標準搭載したIoT家電がかなり身近な存在になっている。家電量販店では、高価格帯の洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどがIoT機能を売りにしている。しかし、IoTは高価格帯製品の専売特許ではない。中国シャオミ(Xiaomi)の製品は、IoT対応でも価格が安く、かつそのデザイン性が若者を中心に人気だ(図2)。昔は粗悪品が多いと言われていた無名のローカルブランドの家電も、最近では品質が格段に向上してきた。つまり、IoTに対応しているか否かは、価格とは無関係ということだ。

図2 シャオミのIoT炊飯器
図2 シャオミのIoT炊飯器
スマホのアプリから操作できる「Mi IH炊飯器」。日本でも販売している。(写真:日経クロステック)
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 市場の傾向として面白いのは、海外勢を中心とする高価格のプレミアムブランドの製品は機能性を売りにしており、IoTは後付けのイメージ。これに対して、スマホメーカーのシャオミや中国ファーウェイ(Huawei)の製品はIoTが前提にあり、そこから家電に参入してきた。だから卓上ランプでもネットにつながる。シャオミなどの製品を支持する若者層は、IoT対応は当たり前のこととして製品を選び、「壊れたら買い替える」という考え方をする。こういう“新世代”が、中国の家電市場に大きな影響を与えている。