IOWN構想の実現に向けて、急ピッチで研究開発を進めるNTT。実現の鍵を握るのは世界攻略だ。もはや世界を見据えなければ、情報通信の技術トレンドを作れない。国内外でいかに有力企業と協業関係を築くのか。NTTはこれまでにないアプローチで動くが、課題も数多く残る。
「エレクトロニクスからフォトニクスに至るまで。自らの技術を持ち込みたい世界の企業ばかりだ」─。NTT 常務執行役員 研究企画部門長の川添雄彦氏は、IOWNの仕様を策定するIOWN Global Forumに参加する企業の顔ぶれに手応えを感じている(図1)。川添氏は、同Forumの議長(Chairperson)も務める。
低消費エネルギー性に優れた光技術を、Beyond 5G/6G時代のコンピューティング基盤から通信に至るまで活用し、現在の世界の情報通信基盤を根こそぎ変革しようというIOWN構想。NTTや国内のインフラ導入にとどまるだけでは、グローバル化が進む世界市場で主導権を握ることはできない。世界の通信事業者がオールフォトニクス・ネットワークのようなインフラを導入し、IT大手がIOWN構想の光電融合技術を製品やサービスに活用するようになって初めて、世界をゲームチェンジできる。
NTTはiモードの世界展開の失敗などの過去の経験から、そんなことは痛いほどよく分かっている。IOWN構想の実現に向けて最初から世界を見据えて動く。手始めにIOWN Global Forumを米国に設立。同Forumには、米Intel(インテル)や米Microsoft(マイクロソフト)、スウェーデンのEricsson(エリクソン)、米NVIDIA(エヌビディア)など、世界の錚々(そうそう)たる大手企業が参加するに至り、滑り出しは上々といったところだ。
「特徴的なのはIOWN Global Forumに参加する通信事業者が、台湾の中華電信くらいしかいない点。技術のイノベーションを本当に起こしたい企業が集まっていることの裏返しだ」(川添氏)。通信事業者がこの手の国際団体を設立する場合、横のつながりから世界各国の大手通信事業者が名を連ねることが多い。米国ではAT&TやVerizon(ベライゾン)、欧州では英Vodafone(ボーダフォン)や独Deutsche Telekom(ドイツテレコム)、スペインのTelefónica(テレフォニカ)といった事業者が常連だ。
だがこうした通信事業者の国際団体が、世界のITを含めた大きな流れを作ることは、これまでほとんどなかった。技術革新は半導体メーカーやIT大手が進め、通信事業者は機器を調達してサービスを提供する立場である。結局、外部で開発された技術を採用せざるを得ない。
しかし、NTTは海外の通信事業者とは一線を画す。今や世界の通信事業者がほとんど手放してしまった基礎研究を含む本格的な研究開発体制を持つ。過去には1970年の大阪万博でコードレス電話機を出展したり、1977年には光ファイバーの製造技術を古河電気工業などと共同で開発したりしている(図2)。国内で3つの総合研究所、北米にも新たに基礎研究をターゲットにする研究所を設け、NTT持ち株会社だけで約2300人の研究者を抱える。IOWN構想は、そんな研究所の開発成果をこれでもかというほど盛り込んでいる。IOWN構想の核となる光電融合技術も、研究所で長年取り組んできた光技術の研究成果だ。
NTTはその強みを生かし、旧来の通信事業者の枠を越えた、世界の技術トレンドを作り出そうとしている。