全7845文字
PR

構想通り実を結ばず

 だが研究開発体制を持つだけで、世界の技術トレンドを作れるほど甘くはない。

 INS(高度情報通信システム)構想にVI&P構想、マルチメディア基本構想、21世紀R&Dビジョン、“光”新世代ビジョン、NGN(Next Generation Network)構想─。いずれも過去40年近くにわたってNTTが研究開発の力を結集したビジョンとして打ち出してきた構想だ。華々しく構想を打ち出したものの、新たなサービスを生み出さずインフラ導入にとどまり、当初の計画通り実を結んだケースは少ない(表1)。

表1 NTTがこれまで打ち出した主なR&D構想
当初の構想通り実を結んだケースは少ない。(図:日経クロステック)
構想名 時期 概要
INS(高度情報通信システム)構想 1979年 音声や文字、映像などの情報をデジタル化して、総合的にネットワークに乗せることを提案
VI&P構想 1990年 音声や文字、映像などの情報を総合的に扱えるように、全家庭を光ファイバーで結ぶ「広帯域ISDN」の構築を1995年着手、2015年完成という目標を掲げる
マルチメディア基本構想 1994年 高速データ通信やPHS、マルチメディア通信の開発、ネットワークのオープン化、国際活動の強化などを表明
21世紀R&Dビジョン 1996年 電話中心から、データ通信やコンテンツなど「情報通信」へ移行を表明
グローバル情報流通構想 1998年 21世紀R&Dビジョンに加え、電子商取引やコンテンツなどの領域に集中して研究開発すると表明
“光”新世代ビジョン 2002年 2007年に本格的なブロードバンド時代が来るとし、新たなIP基幹ネットワークを構築。新たなFTTHサービスを提供すると表明
NGN構想 2004年 新たなIP基幹ネットワーク「NGN」を構築し、2010年度までに3000万のユーザーをNGNに移行させると表明

 例えば2004年に公表したNGN構想は、電話網のIP化と共に、ネットワークの品質制御機能などをSNI(application-Server Network Interface)というインターフェースで一般企業に開放し、新たなサービスを生み出す触れ込みだった。だが結果的に一般企業とのサービス共創は大きな成果をあげず、現状でNGNはもっぱら、NTT東西のFTTH(Fiber To The Home)やIP電話サービスのバックボーンとしての役割にとどまっている。

いつ、誰と、どこまでやるのか

 IOWN構想が同じ轍を踏まないためには何が重要になるのか。

 川添氏は「これまでの構想の反省を踏まえ、IOWN構想では新たなアプローチで進めている。いつ、誰と、どこまでやるのか、という3点がこれまでと違う」と強調する(図3)。

図3 過去の教訓から戦略見直し
図3 過去の教訓から戦略見直し
これまでのR&D構想は「いつ」「どこまで」「誰と」戦略を進めるのかという点に課題があったとする。(図:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 まず「いつ」という点で川添氏は、「研究の発明時期と市場投入の時期にはズレがある。市場化の時期を見極めることが重要」と語る。

 研究としては画期的だったが、市場投入の時期が早過ぎて顧客のニーズを生み出せなかった例は、NTTに限らず過去に幾多もある。いわゆる事業化という「死の谷」を越えられなかった研究開発だ。「研究開発のマネジメントとして、社会実装に結びつけるため、まるで考古学者のように過去に埋もれた研究成果を発掘することもある」(同氏)と続ける。

 今回のIOWN構想は、「まさに今、市場で受け入れられる土壌ができている」(同氏)とする。インターネットのトラフィックは伸び続けており、消費電力を削減していく機運が世界的に高まっているからだ。「この状況をなんとかしたいと誰もが感じている」(同氏)。それを受けて、どのような形でIOWN構想を世に打ち出すのか、NTT社長の澤田純氏と徹底的に考えたという。