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報酬1億円の研究者も

 NTTは、GAFAなどに流出する世界の頭脳を呼び戻すため、研究開発体制の強化にも乗り出す。

 その1つが2019年に設立したNTTリサーチだ。量子計算と暗号情報理論、生体技術という先端分野の基礎研究に特化した研究所であり、世界の人材を採用しやすいように北米に拠点を設けた。暗号情報理論では、同分野で世界的に知られるNTTフェローの岡本龍明氏を組織のトップにした。その結果、続々と世界レベルの優秀な頭脳がNTTリサーチに集まっているという。「今や暗号分野の有力論文誌に採用される論文の15%がNTTの研究者になった。これはすごいことだ」(川添氏)。豊富な資金で根こそぎ人材を奪う海外勢に対抗するため、研究者の待遇面の改革も進めている。NTTリサーチでは、1億円の報酬を受け取るスター研究者も誕生しているという。

 IOWN構想の推進や国際競争力強化を加速するために、NTTグループの再結集も進む。NTT持ち株会社は2020年末、グループの稼ぎ頭であるNTTドコモを約4.3兆円もの資金を投じて完全子会社化した。1992年の分社化以来、28年ぶりに移動体通信事業を本体に取り込んだ。

 ドコモを完全子会社化した目的について澤田氏は「情報通信市場では固定と移動通信が融合、グローバルプレイヤーも含めた多層的な市場環境になっている。新たなグローカリズムが台頭する社会において、世界レベルのダイナミックな経営環境に対応する必要があるためだ」と話す。

 ドコモの完全子会社化は、研究開発やIOWN構想推進の強化にもつながる。これまでは移動通信分野の研究開発や標準化活動はドコモ傘下の研究所が担っており、特にNTT持ち株会社傘下の研究所との移動通信分野の連携が十分ではなかったからだ。ドコモを完全子会社化したことで、今後はNTT持ち株会社とドコモの研究開発体制を一体運営し、リソース結集を図る。

 IOWN構想の社会実装へ向けたスピードアップを図るためNTTは、研究所のさらなる体制変更も検討する。「IOWNという大きなビジョンを実現するには、従来の基礎研究と、開発体制を分けたほうが効率的だ」と川添氏は考えている(図5)。国内で3つの総合研究所に加え、IOWNの開発体制を推進する新たな組織ができるとみられる。

図5 IOWN推進に向けて研究開発体制の再編へ
図5 IOWN推進に向けて研究開発体制の再編へ
NTTドコモの研究開発組織との連携強化を図るほか、IOWNの開発体制を強化する。(図:日経クロステック)
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ゲームチェンジャーになれるか

 NTTが約2年前に公表したIOWN構想は、NTTグループ内はもちろん、世界の大手企業を巻き込んだ広がりを見せている。

 あまりに壮大な計画に対し、IOWN Global Forumに参加する企業から戸惑いの声も聞こえてくる。それを含めてIOWNが示すインターネットやコンピューティングの限界を超えるアプローチは、世界の主要企業の注目を集めている。

 かつてNTTは時価総額で世界1位だった。だが90年代、2000年代と日本の失われた20年と歩調をあわせるように時価総額が落ち込み、急成長した米中の巨大IT各社に大きな差をつけられてしまった。日本のIT、通信機器産業も今や、国際的な競争力を失いつつある。澤田氏は「日本は決して技術力や発想力で世界に劣後しているわけではない。アーキテクチャーや方式など土俵を作る点に弱く、海外のプレーヤーはルールを作ることに長けていた」と分析する。

 IOWNはまさに新たな土俵となる。IOWNは日本勢が復権し、世界の情報通信に革命をもたらすゲームチェンジャーになれるのか。それとも限られた分野のインフラ導入にとどまるのか。これからの取り組み次第で未来は変わる。その成否は、日本のエレクトロニクス産業に大きな影響を与える。