個人や家庭に向けた世界最小の協働ロボットアーム「myCobot」が、自発的にハードウエアの開発を手掛ける「Makers(メイカーズ)」のコミュニティーで大きな話題になっている。開発したのは中国のロボットベンチャーElephant Robotics(大象科技)。同社を2016年に創業したCEOのJoey Song氏は、米フォーブス誌の「中国で注目の30歳以下の起業家」に選ばれたこともある。人間と協働する「コレクティブロボット」というコンセプトを掲げる同氏に話を聞いた。

個人や家庭に向けたロボットアーム「myCobot」がメイカーズの界隈で大きな話題になっています。御社はどのような製品を手掛けているのでしょうか。
現在は産業用のロボットアームが主力製品で、それを4シリーズ販売している。そして2020年後半にmyCobotを発売した。価格は649米ドルと安価だ。さらに猫型のペットロボット「MarsCat」を開発している。すべては、コレクティブロボットのコンセプトの実現やそのプロセスを最適化していくために開発している。判断に迷ったら、このコンセプトに立ち返る。
myCobotはこれまでの主力商品だった産業用ロボットと同じサーボ数、開発環境を使える状態を維持しながら、可能な限り小さく、そして安くしたものだ。元々は、サイズが大きい産業用ロボットのためのトレーニングや検証などの用途を想定して発売したが、多くの人が「初めてのロボットアーム」として購入している。
実際、myCobotの販売は、これまでの産業用とはケタ違いの伸びを見せている。産業用ロボットの売上を伸ばすのは大変だが、myCobotはユーザーが競って買っていく。人間がいる空間で動作するmyCobotは、産業用よりコレクティブロボットというコンセプトに近いもので、このコンセプトの正しさを証明してくれている。
もちろん、新しいカテゴリーの製品には難しさもある。コレクティブロボットの安さ、強過ぎないパワー、手軽さという魅力は、逆に既存のロボットアームを望む顧客を遠ざけることにつながる。また、myCobotは多くの人にとって初めてのロボットアームなので、イロハからすべてを教えてあげなければならない。だから、これまでよりも何倍も詳しいオンラインのマニュアルを作り、そこにはロボットアームそのものの一般的なことも記述している。
我々が目指しているコレクティブロボットは、人間と同じ空間で、人間と協働することを前提にしたロボットだ。今の主力は産業用のロボットアームだが、既に世界には様々な優れた製品がある。例えばドイツのKUKAやABB、日本の安川電機の製品は、人間がいない場所で作業することを前提としており、高精度でハイパワーだ。
しかし、我々は彼らと競合する製品を作ろうとは思っていない。人間と協働するというコンセプトは、製品のすべてに影響を及ぼす。例えばコレクティブロボットにとって、価格が安いこと、安全なこと、手軽に使えることは伝統的な産業用ロボットよりも重要な要素になる。そのため、「メカ的な機構をサーボ、ギヤ、ハーモニックドライブのどれで実現するか」といったような仕様策定が、コレクティブロボットと産業用ロボットでは変わってくる。
一般的にロボットアームでは、強く・速く・正確な動作を実現するためにハーモニックドライブを使う。「厳密に数値で動作を規定したら、それ以外のことはしない」ように設計されている。それは、「無理やり人間がロボットアームを動かすと壊れる」というデメリットと隣合わせだ。産業用ロボットアームならそれでよいが、我々が目指すコンセプトとは相容れない。
我々はその時に、なるべく安く、そしてメカ的な機構ではなくてセンサーとアルゴリズムでコンピューター的に制御する手段を採用するようにしている。力が強過ぎず、センサーによって停止し、無理やり動かしても壊れづらい、などを含めて安全なこともその1つだ。通常のロボットアームで使われているハーモニックドライブの進化は、パワーや正確性の向上をもたらす。でも、それだけだ。一方、我々の「メカニカルな機能をなるべくコンピューター的に実現しよう」という方針は、例えばアルゴリズムが進化すると、動作の正確性が増すだけでなく、制御ソフトの使いやすさなど、複数の要素の進化を可能にする。