全12154文字
PR

Zoox

Amazonの下でクラウド強化か?

 20年度の報告書において、米IT企業関連で成績が良かったのがZooxだった。同社は、Amazonによって20年6月に買収された。今回の報告書では、自動運転継続平均距離は約2620kmと19年度に比べて微増し、10位に入った。総走行距離に関しては、期間中に外出制限が敷かれたコロナ禍にもかかわらず、19年度比で約5割増の約16万5000kmだった。これは、Cruise、Waymo、中国系のPony.aiに次ぐ4位となる長さで、同社が精力的に試験をしている様子がうかがえる。

 Zooxは、20年9月に加州DMVからテストドライバーが不在での自動運転車を利用した公道試験の認可を得た。20年12月には、移動サービス(ロボタクシー)向けの独自小型EVを披露するなど、Amazonによる買収後も、実用化に向けて順調に歩みを進めている(図7)。

(a)試験車両
(a)試験車両
[画像のクリックで拡大表示]
(b)ロボタクシー車両
(b)ロボタクシー車両
[画像のクリックで拡大表示]
図7 Amazon傘下のZooxの車両
(a)は2020年に撮影したサンフランシスコに停車中のZooxの自動運転車の試験車両。(b)はZooxが公開したロボタクシー向け車両。(写真・画像:(a)は日経クロステックが撮影、(b)はZoox)

 Amazonは以前からAurora Innovationに出資しており、自動運転技術分野に強い関心を寄せてきた注10)。そしてZooxの買収に踏み切った。Amazonは自動運転技術に注目する理由を明言していない。配送コストの削減に向けて単に配送用車両に適用するだけなのか、ロボタクシーのような移動サービスを本格的に開始するのか不透明である。ただし、Amazon傘下のクラウド最大手の米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の事業拡大のためにZooxを買収したと考えると納得がいく。自動運転車両用に必要な機能を、ZooxやAurora Innovationを運営しながら学習してクラウドサービスに実装し、これを他社の自動運転サービス事業者にも提供しようとしているのではないかというわけだ注11)。これはまさに、まず自社サービスでの利用で磨き上げ、その機能を外部企業にも提供するというAWSの事業モデルそのものである。

注10)Aurora InnovationはGoogleやTesla、Uber Technologiesの出身者らが17年に設立した企業である。ハードウエアやソフトウエア、データサービスなどを含んだ自動運転プラットフォーム「Aurora Driver」を手掛ける。Amazonのほか、著名なVC(ベンチャーキャピタル)の米Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)などが投資している。
注11)AWSの自動運転サービス向けの機能が充実してくれば、将来、自動運転の実現に必要な基本的な機械学習などの機能を低価格、あるいは無料で提供するようになる可能性がある。実際、AWSは業種別に特化したサービスや機能の提供に力を入れている。例えば、20年12月に製造業に焦点を絞った機械学習サービスの提供を始めている。同様に、コネクテッドや自動運転に特化した機械学習サービスをAWSが提供する可能性がある。既に、機械学習技術について学ぶためのAIミニカー「DeepRacer」を提供している。これをさらに拡張し、AWSの新たなサービスに仕立てるのは自然な流れといえる。

 自動車業界におけるコネクテッド機能や自動運転機能の搭載に向けてクラウドサービスへの需要が高まる中で、AWSは事業拡大に向けた動きを加速させている。その結果、大手の自動車メーカーや1次部品メーカー(ティア1)での採用が相次ぐ。例えば、20年8月にトヨタ自動車と提携した。コネクテッドカーから取得した車両データを蓄積してビッグデータ分析するトヨタのサービス基盤「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」の強化に向けて、AWSのさまざまなサービスを活用するという。ティア1では、ドイツContinental(コンチネンタル)がAWSを活用している。

 仲間作りも着々と進めている。iPhoneの製造受託で知られるEMS(電子機器の受託製造サービス)最大手の台湾・鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)が20年10月に立ち上げた、EVプラットフォームの構築に向けた団体「MIH EV Open Platform」にAWSが参加。MIHにはこのほか部品メーカーや半導体メーカー、ソフトウエア企業など1000社ほどが参画しているとみられ、EV製造の水平分業を可能とする巨大組織に成長しつつある。この組織の中でAWSは有力なクラウドサービス提供者であり、鴻海にEVの製造を委託した企業がクラウドサービス事業者としてAWSを選ぶ可能性が高い。鴻海 董事長の劉揚偉氏は、27年に世界のEV販売シェアの10%を獲得するという野心的な目標を掲げており、この目標を達成できれば、AWSの売り上げも大きく伸びるだろう。

 さらに、AWSは21年2月に車載OS(基本ソフト)「QNX」を手掛けるカナダBlackBerry(ブラックベリー)と提携し、自動車用のデータ基盤「BlackBerry IVY(アイビー)」を共同で開発すると明らかにした。QNXのOTA(Over the Air)を含む組み込みシステムと、AWSのクラウドサービスを連携させるという。AWSでデータを分析して得られた結果をAPI(Application Programming Interface)を通じて、自動車メーカーのほか、アプリやサービスの開発者に提供する狙いがある。

Apple

ベンチャー買収も他社に見劣り

 毎年注目を集め、20年末から21年初頭にかけて自動車事業参入の報道が目立ったAppleは、自動運転継続平均距離が約233km、総走行距離が約3万260km、そして実際に走行させた車両数が29台となり、いずれも19年度を上回った(19年度はそれぞれ、約190km、約1万2140km、23台)。ただし、総走行距離と車両数は18年度の水準に達していない。18年度の総走行距離は12万8000kmほどで、走行した車両数は62台だった。20年度の総走行距離は、これに対して1/4にすぎない。

 一方で、20年度の自動運転継続平均距離は18年度に比べて大幅に改善した。18年度の自動運転継続平均距離は約1.8kmと、惨憺(さんたん)たる結果で、そのためか19年1月にAppleの自動運転開発部門で200人規模の人員削減が行われたと米CNBCなどが報じていた。

 その後、自動運転技術の新興企業である米Drive.ai(ドライブ・エーアイ)を19年6月に買収し、反転攻勢に出ていた(図8)。その成果が20年度には表れたといえそうだが、自動運転継続平均距離が2000kmを超える上位10社に比べて、依然として見劣りする。Appleが本当に自動車事業に参入するのであれば、自動運転技術を有する新興企業を新たに買収する可能性が高い。

図8 Appleが買収したDrive.aiの自動運転車
図8 Appleが買収したDrive.aiの自動運転車
20年度の報告書でも、自動運転継続平均距離は約233kmと振るわなかった。(写真:Drive.ai)
[画像のクリックで拡大表示]