自動運転技術の要となるのが、多数のセンサーからの情報を処理して車両の制御の判断につなげるAIプロセッサーである。このAIプロセッサーの開発で、国内のチップメーカーが国際舞台で目立つ動きを見せている。ルネサス エレクトロニクス、デンソー小会社のNSITEXE、そしてソシオネクストだ。自動運転車が国内のチップメーカーの反攻のきっかけになる可能性が出てきた。
NVIDIAやTeslaに大差
最近の自動運転用AIプロセッサーは演算性能に対する要求がうなぎ上りに高まっている。1年ほど前までは演算性能が100TOPSもあれば十分とみられていたが、最近では1000TOPS分のプロセッサーを実装した車両も発表された。その一方、単位消費電力に対する演算性能(省電力性能)は1T~2TOPS/Wの壁をなかなか越えられず、AIチップの消費電力が数百~1kWを超えてくる懸念が出てきていた(図33)。これでは、EVの電池容量の相当量をAIに費やしてしまい、航続距離に大きく影響しかねない。
この省電力性能の壁を、量産を見越した製品として初めて大きく破ったのがルネサス エレクトロニクスだ。2021年2月に開かれた半導体回路の国際学会「2021 IEEE International Solid-State Circuits Conference(ISSCC 2021)」で13.8TOPS/Wという高い省電力性能のAIプロセッサーを発表した。少なくとも省電力性能で米NVIDIAやTeslaのチップに大きく差をつけた格好になる。実際の演算性能は60TOPSとやや小粒だが、複数枚を使うこともできる点で、使い勝手がよいともいえる。
消費電力は約4Wで、25Wという空冷か水冷かという境となる消費電力を大きく下回った。空冷であれば、走行中に自然に取り入れられる空気を通せば済む。ところが、水冷が必要となると、車両ではそのための仕組みがやや大掛かりになる上に、水冷システムの駆動自体にも電力を費やしてしまう。
画期的な省電力性能は、意外なほど基本に忠実な設計で実現した。具体的には、AI処理のコア回路であるCNN†回路に近い場所にCNN専用のオンチップメモリーを配置したことだ(図34)。
加えて、映像データを扱うビジョンプロセッサー回路でも同様にすぐ近くにメモリーを配置した。これで、データの移動、特にチップ外への移動が減り、大幅な低消費電力化につながったという。