カメラ、LiDAR、ミリ波レーダーという自動運転の“3種の神器”を、車両にとっての死角をなくす道路側センサーとして交差点の信号機や街灯などに装着する動きが出てきた。潜在的な市場は国内において数十万基以上で、移動通信サービスの基地局数に匹敵する。日本国内における無線規格としては、5Gよりもむしろ760MHz帯のシステムに脚光が当たっている。
道路側(路側)にカメラやLiDAR、ミリ波レーダーなどを設置して、運転支援や自動運転を補助するアイデアは「V2X(Vehicle to everything)」と呼ばれ、決して新しくない。ところが、この数年は実証実験や開発の勢いが鈍っていた。
理由は大きく3点。(1)以前の実証実験で4G(LTE)回線を使ったV2X(Cellular-V2X:C-V2X)には遅延など技術的な課題が大きいことが知られるようになった、(2)各国・地域の電波周波数の割り当ての足並みが揃っていない、(3)道路インフラに頼りたくない自動車メーカーが開発に必ずしも積極的ではなかった、ことなどだ。
このうち、(1)のLTEベースのC-V2Xについては、過去の実証実験で「基地局を介した通信では1秒以上の遅延があることも多い」(ある無線通信関係者)と、否定的な印象が広がったようだ。一方で、最近の実証実験では、LTEでも端末間通信が500m秒(0.5秒)以下の遅延で済んだという報告もあり、意見は分かれている。
ただ、以前は交通システム関係者にあった、DSRC†(Dedicated Short Range Communications)と呼ばれる次世代ITS(高度道路交通システム)の路車間通信(V2I†)向け仕様から、C-V2XまたはC-V2Iに移行するのが当然という雰囲気が、やや希薄になっているのは否めないようだ。
これは(2)の電波周波数割り当ての混乱とも関係している。C-V2Xでは、V2IやV2V†(Vehicle to Vehicle)などの用途で「D2D」あるいは「sidelink」と呼ばれる基地局を介しない通信モードを利用できる。ただし、これには、一般のLTEや5Gとは異なる専用の周波数帯が必要だ。この候補が、これまでDSRCに割り当てられてきた5.8G~5.9GHz帯である。
いち早く、5.9GHz帯をC-V2Xに割り当てたのは中国だ(図1)。これに2020年11月、米国が続いた。ただし、DSRCを丸ごとC-V2Xに鞍替えさせるのではなく、75MHz分あった帯域の30MHz分だけをC-V2X用にした。
一方、欧州ではドイツAudiや同Volkswagenなどの自動車メーカーがDSRCに投資してきた経緯があり、C-V2X推進グループとの数年に渡る激しい議論や対立を経てなお、現在も軸足をDSRCに置いている。ただし、さすがに最近はC-V2X推進側の要望を無視することができなくなり、2021年半ばに双方の共用条件の検討を始め、2022年半ばにC-V2Xの利用を条件付きで認める見通しだ。
日本はというと、これまでDSRC用に5.8GHz帯という海外とは異なる周波数帯を割り当てていた。総務省は現在、これを見直し中で、2022年度にDSRCの割り当てを圧縮すると同時に、5.9GHz帯に5GのC-V2X向け帯域を設ける可能性がある注1)。