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(撮影:加藤 康)
(撮影:加藤 康)
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2021年2月、日本の量子技術研究を加速するために、国内の大学や研究機関に中核となる8拠点を整備する「量子技術イノベーション拠点」事業が動き出している。同戦略の推進に大きく関わった量子技術推進議員連盟 会長の林芳正氏に、日本の量子技術戦略の今後について聞いた。

日本政府としてなぜ量子技術の研究開発に力を入れるのでしょうか。

 日本政府としては、かなり以前から量子技術が重要であるという認識がありました。私が文部科学大臣を務めていた17年ころの予算編成にも、最重要項目の1つとして選ばれています。重要な量子技術の1つとして、量子暗号通信があります。今後は、量子暗号通信を実装しているかどうかで、服を着ているか着ていないかぐらいの違いになってくるでしょう。量子暗号通信は、国防としての安全保障はもちろん、金融分野などでの個人情報保護の視点でも非常に重要な技術になります。

 私は19年、自由民主党内で量子技術関連の予算を確保していくことを目標に「量子技術推進議員連盟」を作りました。同連盟は、産官学連携で量子技術について議論する場である「Quantum Summit(以下、Q-Summit)」を主催しています。19年に検討が始まり、20年から本格的に活動を始めました。Q-Summitを作ったのは、様々な量子技術を横串で推進する必要が出てきたからです。これまでは量子コンピューターや量子暗号通信、量子インターネットなどがそれぞれの技術として研究開発が進んでいました。今後は分野を融合していく必要が出てきます。

 21年2月に量子技術イノベーション拠点がスタートしたことで、量子技術を横串で進める活動も進みやすくなりました。理化学研究所に中核拠点を作り、国内の大学や研究機関に全8拠点を整備しています。Q-Summitの本格的な活動開始から1年間で、矢継ぎ早に仕組みが整っています。量子技術関連の予算も大きな勢いで伸びています。

世界各国と比べて、日本の量子技術の優れている点、足りない点をどのように見ていますか。

 日本は「量子」という言葉が広く浸透する前から、この分野で研究開発を進めてきました。物理学者の湯川秀樹氏をはじめとして、日本が元々強みを持っている「お家芸」です。これまで欧米や中国などの他国も、日本の研究結果を参考にしてきました。量子技術イノベーション拠点を整備し、拠点間を自由に交流できる仕組みを作りましたので、日本が持つ強みを伸ばせると期待しています。

 一方で日本の現状として、量子暗号通信など防衛に関連する研究開発に対して、一部で拒否感を抱く関係者がいます。米国の国防総省はDARPA(国防高等研究計画局)に研究開発費をつぎ込んでおり、関係者による反発もあまりありません。日本で国防用途での量子暗号通信が進まないのは、こうした反発も理由にあります。