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 量子暗号通信や量子インターネットの仕組みを理解するためには、最低限の量子力学の知識が必要だ。直感的に理解しやすい古典物理学と比べて、量子力学は日常的な直感とはかけ離れた物理現象となっている。そんな量子力学の中から、今回の特集のテーマに沿って、最低限知っておきたいキーワードを解説する。

粒子と波の2重性(重ね合わせの原理)

 物理量の最小単位である量子は、粒子と波、双方の性質を持つ(図1)。量子はそれ以上分割できない小さな物質であると同時に、波として互いに干渉しあう存在だ。このような性質は、ニュートン力学などの物理法則(古典力学)では説明がつかない。粒子と波の2重性という概念の確立は、量子力学の発展につながった。

図1 量子には粒子と波の両方の性質がある
図1 量子には粒子と波の両方の性質がある
例えば、光の最小単位である光子などは粒子のようにも、波のようにも振る舞う。量子はそれ以上分割できない物質であるため、粒子としての性質がある。一方で、強め合ったり、打ち消し合ったりする波としての性質も併せ持つ。(作成:日経クロステック)
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 電子は、粒子と波の2重性を示す量子の代表例だ。原子核の周りに分布する電子は、それ以上分割できないという粒子としての性質を持つ一方で、波としての性質も持つ。

 粒子と波の2重性を現実の現象として示したのが、有名な2重スリットの実験である。

 高電圧をかけて電子を飛ばす電子銃の先に壁(スクリーン)を置き、電子銃と壁の間に、電子が通れる2つのスリットをつくるとしよう。電子が単なる粒子であれば、2つのスリットのいずれかを通過して、スクリーンに着弾するだろう。すなわち中央部分が最も色濃くなり、周囲に離れるにしたがって色が薄くなるようなイメージが予想できる。2つのスリットから周囲に分散した電子が、中央部分で集中するためである。

 だが実際にこの2重スリットの実験を行うと、スクリーンには、しま模様が現れるのである。電子が波の性質を持っていなければ、このような干渉しまはできない。

 電子は、スクリーンに着弾した時点では粒子として振る舞う。一方で、着弾までのどこかの過程で、波としても振る舞ったため干渉しまができたということになる。

 粒子と波の2重性は、電子がどちらのスリットを通ったのか観測することで顕著に現れる。スリットの地点で電子を観測すると、この干渉しまができなくなるのだ。つまり、観測によって電子の波としての性質がなくなり、粒子としての性質のみが現れるのだ。

 量子力学の解釈では、様々な位置に電子が存在する可能性があり、この可能性の大きさが波に対応する。これを量子力学では、重ね合わせの原理と呼ぶ。

 量子はのぞき見るまでは、様々な可能性がある(「0」でもあり「1」でもある)。観測によって状態が「0」か「1」に確定するのである。

 この重ね合わせ状態の壊れやすさが、量子コンピューターの実現の難しさにつながっている。