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米Appleが5G(第5世代移動通信システム)向けミリ波アンテナモジュールに自社設計品を採用していることが判明した。狙いは、米Qualcommが席巻する、移動通信関連部品を「手の内化」することにあるとみられる。今後、RFトランシーバーICやベースバンド処理ICなどでも手の内化を進め、主要部品の内製化をさらに一歩進めるとみられる。

 半導体部品を中心に主要部品を自分たちで設計する「自前主義」のAppleが、いよいよ5G(第5世代移動通信システム)の主要部品まで自ら手掛けていることが分かった。米国版「iPhone 12」および2021年版の「iPad Pro」(以下、iPad Pro(2021)と表記)シリーズが採用するミリ波帯の5G通信用のアンテナ内部を日経クロステックが分析したところ、汎用品ではなくカスタム品を搭載していることが判明した。

 米国版iPhone 12シリーズ、iPad Pro(2021)は、28GHz帯と39GHz帯という2種類のミリ波帯5G通信に対応する。対応エリアは限られるものの、米Verizonが米国内でミリ波帯の5G通信サービスを積極的に提供しているからである。

 広い帯域幅を活用できることで高速通信が可能なミリ波帯5G通信だが、直進性が高く、電波が隅々まで届きにくいという難しさもある。日経クロステックは、ミリ波に対応した米国版「iPhone 12 Pro Max」および「12.9インチiPad Pro(2021) 」を入手。分解したところ、5G通信用の半導体部品はQualcomm製である一方、アンテナモジュールは、ミリ波帯アンテナモジュールとして一般的なQualcommの汎用品(「QTM535」など)ではなく、カスタム品を採用していた。扱いが難しいミリ波帯の電波をつながりやすくするための工夫とみられる。

iPhoneにも、iPad Proにも3つ

 iPhone 12 Pro Max、iPad Pro(2021)のミリ波帯のアンテナモジュールは、それぞれ全部で3つあった(図1)。iPhone 12ではディスプレー面と背面、側面、iPad Pro(2021)では、インカメラを上にして縦(短辺が上下になる状態)に持ったときに、左下と右側面上方、左上にアンテナがあった。それぞれ異なる方向から電波(電磁波)を送受信できるようにしている。どんな持ち方や置き方をしても、どこかのアンテナが手や机に遮蔽されない工夫とみられる。

図1 iPhone 12 Pro MAXとiPad Pro(2021)での5Gミリ波アンテナ搭載位置
図1 iPhone 12 Pro MAXとiPad Pro(2021)での5Gミリ波アンテナ搭載位置
それぞれ3つのアンテナを備える。手に持ったときや、机に置いたときにすべてのアンテナが隠れないように配置されている。(写真:(a)はフォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ、(b)は日経クロステック)
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 iPhone 12の前面側および、背面側を向いているアンテナモジュールと、iPad Pro(2021)の右側面上方のアンテナモジュールはいずれも外観からQualcommの汎用品と大きく異なる。残りのアンテナモジュールは、外観は似ているもののQualcommの汎用品と比べてやや小さかった(図2)。

図2 Qualcomm品より小型に
図2 Qualcomm品より小型に
Apple独自のアンテナモジュールの方がQualcommのものより、全体的に小さい。(写真:日経クロステック)
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 QualcommのQTM535は、韓国Samsung Electronicsが2020年8月に発売したスマートフォン「Galaxy Note20 Ultra」などに一般的に採用されている。今回の比較では、米国版のGalaxy Note20 Ultraが搭載するQTM535を調査した。同製品の側面アンテナモジュールのコネクター部を除いた外形寸法は、長さ約17.7mm×幅約4.2mm×高さ約2.0mm。これに対してAppleのアンテナモジュールは、長さ約16.9mm×幅約3.8mm×高さ約1.9mmだった。