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iPhoneの生活必需品化に向けて今、米Appleが最も注力しているのが、UWB(Ultra-Wide Band)無線機能の利用シーンの拡大である。UWBの高精度測距をしながら通信ができる特長を活用し、家や自動車のセキュリティーシステム、決済端末、身の回りのIoT機器との連携を進める。エレクトロニクス業界全体を巻き込む勢いとなってきた。

 UWBは2000年代前半に脚光を浴び、当時としては高速な1Gビット/秒の通信を実現する潜在力を秘めることや、高精度な屋内測位が可能なことから「無線の革命児」とまで呼ばれた無線技術である。当初は特に高速通信を実現するための技術として注目された。ところが無線LANの高速化などの理由によって普及に至らず、UWBは2010年代以降、コンシューマー用途の表舞台でほとんど見かけなくなった。

 そんなUWBに再注目したのがAppleだ。同社は19年発売の「iPhone 11」シリーズにUWB無線機を搭載した(図1)。同社がUWBに期待を寄せた理由は、GPS(全地球測位システム)の電波が届かない屋内での高精度な測位・測距に向くうえ、同時に通信も可能だからである。無線LANやBluetoothでも測位・測距は可能だが、UWBの方が高精度で、かつ短時間で測定できる。電波(電磁波)環境によるものの、Bluetoothの場合、検出できる位置精度は±数十cmであるのに対して、UWBであれば±数cmである。測定時間は、Bluetoothが秒オーダーなのに対して、UWBはミリ秒オーダーと3桁短い。そのため、これまでは「リアルタイム位置測位システム(Real Time Location System:RTLS)」といった、生産管理や安全管理、物流管理などのBtoB(企業向け)分野で導入されてきた。

図1 UWB機能を「iPhone 11」から搭載
図1 UWB機能を「iPhone 11」から搭載
「iPhone 11 Pro」のメイン基板。下側にある長方形の銀色のチップが「U1」である。(写真:加藤 康)
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 Appleはまず、iPhone 11において、近距離にある他の端末と無線通信を利用して写真や書類などのコンテンツを送受信・共有する「AirDrop」機能にUWBを適用した。自分の端末を相手の端末に向けると、相手の送信先のリストに最初に表示されるなど、UWBによって、より直感的に使えるようにした。

 次に、20年発売の「Apple Watch Series 6」と「iPhone 12」シリーズ、スマートスピーカー「HomePod mini」にUWB無線機能を採用するなど、対応ハードウエアを増やしていった(図2)。HomePod miniでは、UWBの特性を生かして、iPhoneとオーディオ機能でスムーズな連係を図れるようにしている。例えば、音楽再生中のHomePod miniにiPhoneを近づけると、その音楽再生がiPhone側に引き継がれる。家から音楽を途切れさせることなく出かけられる。

図2 UWBで音楽再生をシームレスに
図2 UWBで音楽再生をシームレスに
HomePod miniにiPhoneを近づけると、その音楽をiPhone側で引き継いで、外出先でそのまま聴けるようになる。(写真:Apple)
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 続いて、21年4月発売のAirTagにUWBを採用した(図3)。紛失タグの通信にはこれまでBluetoothを利用するのが一般的だった。AirTagでは、広範かつおおよその位置探索にBluetoothを利用し、「部屋のどこにあるのか」という細かな位置の推定にUWBを用いる。

図3 紛失防止タグ「AirTag」
図3 紛失防止タグ「AirTag」
UWBの高精度測位を使い場所を特定できる。精度は30cm以下とみられる。(写真:Apple)
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