2019年以降、世界で本格的に商用化がスタートした5G(第5世代移動通信システム)。その後も標準化団体では5Gの機能強化が続々と進んでいる。5Gのアーキテクチャーも、導入初期のNSA(Non-Stand Alone)からSA(Stand Alone)へと進化する。そんな5Gの進化(5G Evolution)の動向について、エリクソン・ジャパンが解説する。
5GにはeMBB(enhanced Mobile BroadBand、高速・大容量)、mMTC(massive Machine Type Communications、多数同時接続)、URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications、高信頼低遅延)という3つの適用分野があります。現在提供されている初期の5Gは、4Gの延長線上にあり、スマートフォン(スマホ)などコンシューマー向けアプリケーションで主にeMBBの利用が広がっています。
一方で5Gはスマホなどで人が使うサービスだけではなく、さまざまな産業分野の利用を最初から想定していることが挙げられます。産業分野では、高信頼や低遅延などの特長を持つURLLCが特に重要です。そのため、移動通信の国際標準化組織「3GPP(Third Generation Partnership Project)」は、2020年半ばに発表した5G高度化のための仕様「リリース16」で、URLLCの主要な機能仕様を標準化しました。
超低遅延を実現
まずURLLCにおける低遅延の実現について、5Gの中にさまざまな仕組みがあります。ここで言う遅延とは、例えば端末とインターネットに接続されたサーバー上のアプリケーション(プログラム)間の通信で、端末がデータを送ろうとしてからアプリケーションがデータを受け取るまで、あるいはその逆方向でデータの送受信にかかる時間のことです注1)。
基本的な仕組みとして、無線でデータを送る周期を短くする点があります(図1①)。この周期は、スキーゲレンデのリフトに例えると、リフトのイスが来る間隔に相当し、これが短くなればスキーヤーがリフトに到着してから乗るまでの時間が平均的に短くなるという原理です。5GではNR(New Radio)と呼ばれる無線方式上のデータ送信周期を「スロット」と呼びます。このスロットに相当する時間の長さを5Gでは短くしました。4G(LTE)では1ミリ(1000分の1)秒で一定でしたが、3GPPリリース15で規定されたNRの初期仕様では1ミリ秒のほか、それより短い0.5ミリ秒、0.25ミリ秒、0.125ミリ秒なども設定可能としました(無線周波数により選択肢が異なる)。さらにミニスロットという仕組みが準備されており、必要が生じたときはより小さい周期にできます。
3GPPのリリース16では、上記の基本的な仕組みに加えて、さらに遅延時間を減らすさまざまな仕組みを拡充しました。その1つが、上り(端末から基地局への送信)方向の「プリスケジューリング」の拡充です(同②)。リフトに例えると、通常はスキーヤーがリフト乗り場に来たときに係員がリフトに乗る順番を決め許可(グラント)してから乗ります。それに対してプリスケジューリングでは、周期的にN番目ごとのイスに特定の人が乗ることをあらかじめ決めています。個別のグラントを待つことを不要とし、定期的に発生するデータの送信遅延削減に有効な仕組みとなっています。4人乗りのリフトに既に4人グループが座っている状況であっても、イスが動きだす前に1人を降ろしてそこに割り込んで乗せてもらうような、割り込みの仕組みも拡充しました(同③)。ここで、割り込まれて送られなかったデータは後続のスロットで送られます注2)。