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オーケストレーターで運用を自動化

 このようなネットワークスライシングを通信事業者が運用する際に重要な役割を果たすのが、ネットワーク全体の装置構成と使用状況を把握し管理する「オーケストレーター」と呼ばれる運用管理システムです。1つの通信ネットワークで設定するスライスの数は数百から数千に上る可能性があります。通信事業者の運用担当者が人手で個別に設定するのは現実的ではありません。そこで各スライスの運用管理をオーケストレーターで自動化することが求められます。

 オーケストレーターは、アプリに必要な通信速度や遅延、信頼性などのサービス品質を要求条件として受け取ると、スライスを構成する無線アクセスネットワークとコアネットワークのリソースを確保します(図6)。コアネットワークのリソースには、通信事業者の地域や中央のネットワークセンターやユーザーに近いエッジサイト(エッジについては後述)にある装置も含まれます。その後、これらのサイト間の伝送ネットワークのリソースを確保します。スライスの持つべきサービス品質については、端末からの要求およびあらかじめ設定されたユーザーの加入情報などから導き出します。

図6 「オーケストレーター」を用いてネットワークスライスを自動設定
図6 「オーケストレーター」を用いてネットワークスライスを自動設定
1つの通信ネットワークで設定するスライスの数は数百から数千に上る可能性がある。オーケストレーターによって各スライスの運用管理を自動化することが現実的となる。(エリクソン・ジャパンの資料を基に日経クロステックが作成)
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 スライスのサービス品質は、ユーザーと通信事業者の間のサービス保証(SLA:Service Level Agreement)として、事業者が担保することが求められます。特に無線アクセスネットワーク部分においては、限られた資源である電波を、各基地局を利用する多数のユーザー間でシェアして使うので、通信速度や遅延を保証するために、ユーザーへのリソース割り当てをミリ秒単位で動的に最適化する技術を利用します注8)

注8)スライスが設定され実際にユーザーがこれを利用し始めると、通信事業者はSLAとして約束したサービス品質を実現しているか、利用状況をモニターします。ここで、例えば遅延時間が約束した値を超えていると判明した場合は、オーケストレーターがスライスを再設定して問題を解決します。このようにネットワークスライシングでは、(1)サービス品質についての取り決め、(2)自動的なスライスの設定、(3)品質保証の仕組み、が大きな柱になります。

 5G SA構成におけるネットワークスライシングは、ネットワークが持つべき基本機能として組み込まれています。さらに品質保証の仕組みの充実に加えて、1つの端末で複数のスライスを利用することも可能となりました注9)

注9)実はネットワークスライシングは5Gで初めて導入された仕組みではありません。標準化上は4Gでもネットワークスライシングの仕様を規定していました。しかし品質保証の仕組みなどが不十分で、1つの端末は1つのスライスしか利用できないといった制約もありました。そのような制約に加えて実際の市場ニーズの面からも、4Gではネットワークスライシングが広く導入されるに到りませんでした。