米国のベンチャー企業による民間宇宙旅行の商業化は、宇宙ビジネス本番への号砲だ。今後、これまでとは比較にならない数のモノ(人工衛星)とヒトが宇宙に輸送され、2040年に100兆円とも言われる巨大市場を形成する。キーワードは「衛星コンステレーション」と「月」。月面探査での先行者利益を狙う民間企業の競争も始まった。
「2021年は民間による宇宙旅行が大きく飛躍する年になった。この大きな流れは、我々が目指している地球低軌道を経済活動の場にすることを推進する起爆剤になる。競争原理による宇宙への輸送コストの低下を含め、今後は宇宙の利用がより身近になっていくと考えている」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)特別参与で宇宙飛行士の若田光一氏は、21年7~9月に相次いで成功した民間宇宙旅行のインパクトをこう語る。
21年9月、米Tesla CEOのElon Musk氏が率いる宇宙企業SpaceXが、4人の民間人だけによる世界初の有人宇宙飛行ミッション「Inspiration4」を成功させた(図1)。4人が乗船したSpaceXの自律運行宇宙船「Crew Dragon」は、同社のロケット「Falcon 9」で打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)より高い高度575kmに到達して3日間地球を周回した。同7月には、米Amazon.com創業者のJeff Bezos氏が率いる宇宙企業Blue Originが、宇宙との境界と言われる高度100kmのカーマンラインを越える初の有人宇宙旅行を成功させた。Bezos氏を含む4人が乗り込んだカプセルを上部に搭載した同社の自動制御ロケット「New Shepard」は、発射約3分後にカプセルを切り離し、カプセルは発射約4分後に高度100km以上に到達。10分強の宇宙旅行を楽しんだ注1)。