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蓄エネルギーシステムの大量導入への熱狂は、Liイオン2次電池(LIB)以外のシステムへも広がり、100年前からある伝統的な揚水発電システムの再評価や改良版の提案から、究極のローテクともいえる重力蓄電、フライホイール、圧縮空気や液化空気など、ありとあらゆる奇抜なアイデアの提案ラッシュが起こっている。既に事業化を進める例も幾つか出てきた。

揚水
中国や北米で沸騰
風力発電との融合例も

 欧米で蓄エネルギーシステムの大量導入が始まった中、リチウム(Li)イオン2次電池(LIB)に次いで、導入量が爆発的に増える見通しなのが、揚水発電システムである。

 揚水発電は一般には、山間部を流れる川に高低差のある2つのダム、「上池」と「下池」を設け、そのダム間で水をやり取りすることで電力を“充放電"するシステムである(図1)。電力系統を構成するシステムとして約100年前から、日本では1934年以降活躍してきた“古参組”だ。

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図1 蛇口をひねるように発電
図1 蛇口をひねるように発電
東京電力RPと北海道電力の揚水発電設備の様子(a~d)。揚水発電設備には、下池に流れ込む川の水を利用した一般的な発電用ダムと兼用になっている「混合式」と、上池からの水だけで発電する「純揚水式」がある。東京電力RPの揚水発電専用の揚水発電の多くは、純揚水式ではあるものの、上池、下池共に、川をせき止めたダムを使う。北海道電力の京極発電所は上池が川につながらない完全な人工池になっている(c)。日本では水車はほとんどがフランシス水車。上池からの導水路には、水道と同様、常に水が通っており、水車手前の弁の開閉で発電のオンオフが瞬時にできる(d)。ただし、水車に慣性があることなどから最大出力になるには1~2分かかる。(写真と図:各社)
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 これらのシステムは巨大だが、応答は比較的速い。「ひねるとジャー」と呼ばれる水道の蛇口と同様、水車の直前にある弁の開閉で約1分後には、最大出力を実現できる。この高速応答性は、最近まで「ピークカット」と呼ぶ、特に昼食前後の急激な電力需要の変動に対応する重要な役割を担っていた。

 日本の揚水発電はこれまでは世界と比べても先進的かつ大規模で、最近、中国に抜かれるまでは総出力で世界1位だった。兵庫県には出力1.932GWと現在も世界最大の「奥多々良木発電所」(関西電力)がある。さらには、かつての東京電力が計画した「神流川発電所」は、フル稼働すれば総出力2.82GWでさらに記録を伸ばして世界最大になるはずだった。