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圧縮空気
貯め方は千差万別
LIB並みの発電コストの可能性も

 圧縮空気を利用したエネルギー貯蔵システムCAES(Compressed Air Energy Storage)も、1978年の最初の実用化から40年以上経った今、刷新に向けて動きだした。CAESは、“充電"時にコンプレッサーを駆動させて電力を圧縮空気に変換。発電時には、圧縮空気が膨張する力によってタービンを回転させて発電するシステムだ。

 ただ、従来のCAESには、(1)岩塩層がある地域でしか使えない、(2)圧縮空気を火力発電所のガスタービンの燃焼効率向上に使うことが前提で排ガスが出る、(3)圧縮時に相当量の熱を失い、発電効率が40%台と低い、などの課題があった。現在はこれらを改善した次世代CAESに取り組む企業が続々と登場し、利用の可能性が広がりつつある。

岩塩層=岩塩が地層内に取り込まれた地質のこと。北米や北海沿岸地域に多い。水を注入するだけで容易に掘削でき、気密性が極めて高いことから、圧縮空気や天然ガスの貯蔵設備としての利用例がある。

 次世代CAESは従来の課題を次のように改善する。(1)の立地制約は、タンクや、水の静水圧を活用した貯蔵設備、既存の人工空洞などを用いて緩和する。(2)の排ガスなどの課題は、火力発電ではなく、圧縮空気の膨張力で発電する専用タービンを利用して解消する。(3)の効率は、圧縮時に発生する熱を熱媒に貯蔵し、発電時の膨張に利用することで、70%台まで向上した。

 さらには、圧縮空気よりもコンパクトな液化空気として貯蔵する、LAES(Liquid Air Energy Storage)という技術も現れた。

廃坑に圧縮空気を“水封”

 日本には岩塩層がほとんどないが、圧縮空気を地下貯蔵できる場所はある。廃坑だ(図13)。電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門 上席研究員の末永弘氏によると、一部の廃坑はコンクリートなどで舗装しなくても、そのままの状態で圧縮空気の貯蔵場所として使えるという。

図13 日本では廃坑が貯蔵サイトとして有力
図13 日本では廃坑が貯蔵サイトとして有力
電力中央研究所が実施したCAES実証実験の概要(a)と、実証実験での空洞の気圧と漏気量の関係(b)。岩塩層がない日本国内の貯蔵サイトとして有力視しているのが廃坑だ。結晶性が高い火成岩でできた坑道だと、コンクリート被覆しなくてもCAESに転用できる場合がある。高圧時の漏気防止には、廃坑の上を流れる地下水の水圧で空気を閉じ込める「水封式」を採用した。1.87MPa以内ならばほぼ漏気しなかった(b)。電中研のCAES開発は2002年に一度終了したが、2014年頃に余剰電力の貯蔵目的で立地条件や技術課題の調査を再開(c)。送電線のひっ迫など、国内のCAESを取り巻く状況が変化している。(図と写真:(a)の写真と(b)のグラフ、(c)の地図は電力中央研究所、それ以外は日経クロステック)
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 主な必要条件は、(1)内壁が結晶度の高い火成岩でできていること、(2)上部に地下帯水層があり被圧されていることの2点だ。電中研ではこれを「水封式CAES」と呼んでいる。火成岩は、その他の岩石と比べると結晶度が高いものの、岩塩層ほどの気密性がない。そこで、貯蔵空間に対して地下水の圧力を補助的にかけることで、漏えいを防ぐのだ。電中研は2002年まで岐阜県の神岡鉱山で水封式CAESの実証実験を実施。1.87MPaの圧縮空気を貯蔵できることを確認した。

 その後、電中研ではCAES開発の中断期があったが、再生可能エネルギーの勃興を背景に2014年頃に立地条件や技術課題の調査を再開。神岡鉱山を含む少なくとも5カ所が、坑道長や水理状況から水封式CAESに適用できる可能性があることを示した。再生可能エネルギー用に送電線網が増強されれば、適地が都市部から離れた場所に多いCAESの追い風になるという注4)

注4)既存インフラをCAESに転用する取り組みは海外でも進んでいる。スイスALACAESは2017年、実証実験としてアルプス山脈を通る廃トンネルを改装し、全長120m、直径5m、容量1MWhのCAES設備を建設した。7M~10MPaに圧縮した空気をトンネルの奥に送り込み、空気栓用のフタをして閉じ込めて貯蔵する。圧縮時に発生する熱は砂利に貯めて、発電時に活用する。発電効率は72%だという。同社では現在、実用化に向けて協力企業を探している段階だ。