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水素貯蔵
水素の大量貯蔵時代始まる
水素吸蔵合金の課題もほぼ解消
水電解装置で生産したH2 は、原則どこかに貯蔵する必要がある。ただ、既存の技術では充填時または取り出し時の損失やコストの高さ、大量のH2 の長期保管における気密性の低さやタンクなどの耐久性の低さといったさまざまな課題があり、必ずしも貯蔵が容易ではなかった。これらについても国内の企業や研究機関が課題を大幅に軽減する貯蔵技術を開発しつつある。
例えば、三菱重工業は、米ユタ州デルタ市近郊で7500トン、熱容量150GWhの大量のH2 を地下1000~1400mに貯蔵するプロジェクトを米Magnum Developmentと共同で取り組む(図11 )注4) 。2025年の実用化が目標だ。
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図11 岩塩層を活用した大規模水素貯蔵設備をユタ州に建設している
三菱重工業が取り組む岩塩層への水素貯蔵プロジェクトの概要。岩塩層への水素貯蔵は、気密性に優れたり、容量当たりの建設コストが安かったりするなど豊富なメリットがある(a)。三菱重工業は、地下1000m以深に紡錘形の空洞をつくり、7500t、150GWhのグリーン水素を貯蔵する(b) 。カリフォルニア州が再エネ100%にしたと想定した場合、春や夏に余剰電力が発生し、秋や冬に電力が不足する。季節ごとの過不足に応じてH2 を生産したり発電に使用したりする(c)。隣接の火力発電所のGTCCの燃料として使用する(d)。火力発電所の水素混焼比に応じて貯蔵容量を拡大していく方針だ。2045年までに最大1.5TWhまで拡大する(e)。水電解装置は、三菱重工業が出資するアルカリ水電解装置メーカーのHydrogenPro製が候補に挙がっているという。同社では、岩塩層が豊富にある米国や北海周辺で複数のプロジェクトが進行している。 (図と写真:(b)の地上配管と池の写真と(c)は三菱重工業、それ以外は日経クロステック)
注4)容量はH2 の低位発熱量(燃焼過程で発生する水蒸気の蒸発潜熱を含めない熱量)を基準としている。
これは、圧縮空気を岩塩層などに貯蔵する方式「CAES(Compressed Air Energy Storage)」のH2 版といえる。岩塩層へのH2 貯蔵には多くのメリットがある。容量当たりの建設コストとランニングコストが液化水素や地上設置式の圧縮水素タンクよりもずっと安い、気密性や耐久性が高く長期貯蔵に向く、などだ。
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