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世界有数の規模をほこる米国の大手通信事業者AT&Tが、自社で運営する移動通信サービス向けのコアネットワークを、米Microsoftに売却する。AT&Tの狙いは、投資効率を上げること。Microsoftの狙いは、通信事業者用のインフラ基盤の提供を自社のビジネスにする狙いがある。この動きは「通信事業者のコアコンピタンスは何か」を問いかける。

 2021年6月末、世界に衝撃が走った。世界有数の規模をほこる米国の大手通信事業者AT&Tが、自社で運営する移動通信サービス向けのコアネットワークを、米Microsoftに売却すると発表したからだ(図1)。Microsoftは今後3年かけて、AT&Tのコアネットワークを同社のパブリッククラウド「Microsoft Azure」(以下、Azure)上に移行。AT&Tは、Microsoftが運用するパブリッククラウド上のコアネットワークを借りることで移動通信サービスを運用する。

図1 米AT&Tが米Microsoftに移動通信サービスのコアネットワークを移管
図1 米AT&Tが米Microsoftに移動通信サービスのコアネットワークを移管
(図:日本マイクロソフトの資料を基に日経クロステックが作成)
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 本特集第2部において、米国の新興事業者である米Dish Network(以下、Dish)が、米Amazon Web Services(AWS)のパブリッククラウドをフルに活用した5G(第5世代移動通信システム)インフラをつくる動きを紹介した。Dishは新規参入事業者であり、多少リスクがあってもチャレンジングな判断をする理由は分かる。

 だがAT&Tは実に約1億8000万契約という顧客を抱える世界有数の通信事業者だ。巨大な顧客基盤を持った通信事業者が、自前のコアネットワーク設備を捨てて、顧客のトラフィックをすべてパブリッククラウド上で処理するという決断をしたのである。

 AT&Tは「顧客のニーズを満たす大規模なネットワークサービスの提供に集中しながら、生産性とコスト効率を向上できる」としている。

 コスト効率性が高いパブリッククラウドの魅力は、世界有数の通信事業者にとっても抗し難いのか。AT&Tの決断は、通信事業者がネットワーク設備をつくるという常識の転換を迫る。同時に「通信事業者のコアコンピタンスは何か」という問いも世界に投げかけている。