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空中ディスプレーの中核部品である「パッシブ(受動)型光学素子」には、複数の方式がある。それぞれには、「映像品質」「システムを構成した際のサイズ」「コスト」などにおいて一長一短がある。用途によっては競合するものの、今後はそれぞれの特性に応じて使い分けられていくとみられる。各方式の特徴や最新の取り組みなどを見ていく。

 2022年8月、東京駅前に地上45階の高層複合ビル「東京ミッドタウン八重洲」が竣工する。ポストコロナ時代の最先端オフィスをうたうこのビルのオフィス棟では、感染症対策のために完全タッチレスの仕組みが導入される。顔認証によるオフィス入退館システムなどとともに採用されるのが、33階あるオフィスフロア各階のエレベーターホールに設置される空中ディスプレー技術を使った非接触の行き先階選択ボタンである。各階に2台ずつなど、合計で70台程度の「空中タッチディスプレー装置」が導入される。

 この装置を開発・提供するのが凸版印刷だ(表1)。最大の特徴が、内蔵する7インチの液晶ディスプレー(LCD)と平行に空中に結像させることで、装置の厚さが電子回路基板を含めて60mmと、他社製品の多くと比べて約50%薄型な点だという。

表1 パッシブ型光学素子を使う空中ディスプレーの方式と特長比較
空中ディスプレーの方式には主に4種類がある。さらに凸版印刷は詳細を明かしていないが「独自方式」で製品化している。(表:日経クロステック、写真:左から日立チャネルソリューションズ、アスカネット(広島銀行)、村上開明堂、日経クロステック、凸版印刷)
表1 パッシブ型光学素子を使う空中ディスプレーの方式と特長比較
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 凸版印刷は技術の詳細について「特許申請中なので公表できない」(エレクトロニクス事業本部オルタス事業部営業部営業企画チーム部長の岩野毅氏)としている。ただし、この装置と同様にディスプレーと平行に映像を浮遊させる「マイクロレンズアレイ(MLA)」とは異なる「独自方式を開発した」(同氏)としている。