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凋落の続く日本の半導体分野で、経済産業省が復権に動きだした。その第1弾が、熊本県への誘致が成功した、台湾TSMC(台湾積体電路製造)の新工場建設である。ムーアの法則が限界を迎える先で重要となる、3次元(3D)パッケージング技術や光電融合技術の先行開発でゲームチェンジも狙う。

 経済産業省は、台湾TSMC(台湾積体電路製造)の新工場誘致を契機に、日本の半導体産業を再び立ち上がらせようとしている。同省の誘致の狙いは主に2点。半導体の国内確保と、将来の半導体人材育成だ。

 TSMCは新工場を熊本県菊陽町に設置し、22/28nmプロセスを中心に生産開始する。5nmのような最先端プロセスでないのは、「国内のユーザー需要を満たすため」(経済産業省 商務情報政策局 デバイス・半導体戦略室長の荻野洋平氏)だからだ。

 最先端プロセスは、ハイエンドのスマートフォンなどに使われるが、米国と異なり日本の半導体メーカーでの需要はほとんどない。一方で22nmのようなプロセスは、イメージセンサー向けロジック半導体などに使われる。車載向けにも重要だ。

 イメージセンサー大手のソニーグループのような国内企業にとって、同プロセスの「安定した調達は非常に重要になる」(同社の吉田憲一郎会長兼社長 CEO)。そこで、熊本工場を運営するTSMCの新会社JASMにはソニーGやデンソーが出資している。

 一方、国内における半導体人材の不足は深刻な問題だ。全盛期と呼ばれる80年代と比べ、凋落した日本の半導体産業に残る人材は少ない。高齢化で業界を去ろうとしている人材も多く、残された時間は限られている。まだ半導体人材が国内にいるうちに、TSMCのような海外ファウンドリーの助けを借りて、新たな人材にバトンを渡せるような環境を整えたい考えだ。

 経産省は新工場設立に際して、約1500人という半導体人材の雇用を見込む。そこで熊本県は産学官の人材育成コンソーシアムを形成し、人材を供給。先端半導体の生産ノウハウを身につけることで、将来の半導体業界の担い手として育てていく。

 文部科学省もこの流れに乗り、国内の主要大学に半導体研究開発拠点を構築する予定だ。同省は22年4月22日、次世代半導体の人材育成などに向けた戦略として、東京大学や東北大学、東京工業大学の3大学を採択した。「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」と名付け、2040年ごろの社会で必要になる半導体技術の研究開発拠点を作る。

 同事業では、半導体の材料の探求から設計や試作、評価まで一貫した研究開発体制を構築。次世代半導体の構想や製造プロセスの幅広い知識をそなえた人材育成を想定するという。

 TSMC新工場の誘致や半導体人材育成は、日本が再び競争のスタートラインに立つまでの布石に過ぎない。日本政府は過去の反省を生かし、どう進もうとしているのか。経産省の荻野氏に聞いた。