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米国と欧州がそれぞれ、半導体のサプライチェーンの強靭(きょうじん)化に向けた法案を打ち出し、対策を進めている。背景には、半導体不足に加え、米中対立やウクライナ侵攻など社会情勢が不安定になるなか、半導体生産の大半がアジア地域に偏在していることに対する危機感がある。先端の前工程工場の建設を誘致しつつ、5兆円以上の財政支援などで復活を目指す。

 「半導体工場への投資に最も適していたのは20年前だが、今こそが2番目の最適期だ。なぜなら、半導体メーカーがチップの需要急拡大に応えて大規模投資を計画しているし、他国が優遇策によって工場を誘致しているからだ。我々はCHIPS法注1)への投資を含む『米国イノベーション競争法』を成立させなくてはならない」。

注1)CHIPSは、Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductorsの略。

 米商務省(DOC)は22年4月6日、半導体支援法案「CHIPS for America Act」の早期成立を目指すため、DOC長官らが議会の議員に向けてブリーフィングを行うのに合わせてプレスリリースを配信、上記のメッセージを掲げた。CHIPS法は、米国内での半導体の研究開発や設計、製造などへの投資に対して総額520億米ドル(約6兆7600億円)の財政支援を行う法案である(表1)。

表1 欧米における半導体サプライチェーン強化のための主な法案
表1 欧米における半導体サプライチェーン強化のための主な法案
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 DOCの分析によれば、21年の国内半導体需要は19年比で17%上昇したが、供給不足によって米国のGDP(国内総生産)は2400億米ドル(約31兆2000億円)が失われたという。

 米国には世界を代表するファブレスやIDM(垂直統合型デバイスメーカー)などが存在し、半導体の先進国であることに疑いの余地はない。しかし、「生産」というミッシングピースがあるために、その損失がもたらされたとDOCは分析する(図1)。事実、現在では世界の半導体の70%以上がアジア地域で生産されており、米国のシェアは90年に37%あったのが、12%にまで低下しているという。

図1 米国と欧州の半導体関係の主要企業と地域に関するデータ
図1 米国と欧州の半導体関係の主要企業と地域に関するデータ
米国は世界のIC売上高で過半数のシェアを占め、世界有数のIDMやファブレスメーカーが数多く存在する。設計ツールのEDA、製造装置も強い。一方、欧州には世界唯一のEUV(極端紫外線)露光装置メーカーのオランダASMLなどがあり、研究開発は強いが、IC売上高のシェアは高くない(図:日経クロステック、IC売上高世界シェアは米IC Insightsの21年版の調査データ、生産シェアは米政府と欧州委員会)
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 サプライチェーンにおけるその穴が、昨今の米中対立と半導体不足で浮き彫りになった。DOCは今回のプレスリリースに「米国は経済の繁栄と国防にとって非常に重要な半導体を自国内で造れることを確実なものにしなければならない」と記している。