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モーター関係者も驚くスペック

 「この値は本当なのか」。実は、デンソーとハネウェルが同モーターの採用に関するプレスリリースに記した「重さ約4kgで100kWの出力」というスペック値が、業界関係者を驚かせている。

 現状、機体開発が進められているeVTOL機に搭載されているモーターは、トップクラスで出力が数十kW、出力密度は1k〜2kW/kgレベルであるという。一方、デンソーらが開発したモーターの出力密度は計算上、25kW/kgになる。これはモーター業界関係者には、にわかに信じ難い数値であるという。と同時に、「機体・駆動系・電源・システムが一体となって開発を進めてきたことで実現した素晴らしい結果の一例」(ある業界関係者)との見方もある。

 デンソーはこのモーターについて、「eVTOL機ではプロペラを駆動する電動推進システム(EPU)注1)が、1機当たり6〜30台も搭載される。このため軽量性が最も重要な要件になる。当社の開発品は車載用と比べて出力密度を大きく向上させており、世界最軽量レベルを目指している」とするが、技術の詳細については明かしていない。

注1)Electric Propulsion Unitの略で、モーターとインバーターを組み合わせた推進ユニット。デンソーはハネウェルとのEPUの共同開発において、独自の磁気回路を用いた高出力モーターや、自社製SiCを用いた高効率・高駆動周波数インバーターを開発すると発表している。

航空機やFAで培った技術を転用

 「eVTOL機の開発では、日本は欧米の先頭集団に数周遅れとなっている」。こう指摘する識者が多い一方で、日本企業が強みを発揮できると期待されている技術分野の1つがモーターである。デンソーの取り組みは、その先兵である。

 政府からアジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区に指定された長野県飯田市に本社を構える多摩川精機も、eVTOL機市場に期待をかける1社である。これまで同社は米Boeing(ボーイング)や欧州Airbus(エアバス)などの民間航空機向けにモーターやセンサーなどさまざまな部品を供給してきた実績を有する。

 多摩川精機は、昨今の航空機の電動化という技術トレンドの1つとしてeVTOL機や大型ドローンに着目している。同社はこれまでFA(産業機器)などに向けて出力30kWのモーター(重さ30kg、出力密度1kW/kg)を出荷してきたり、ドローン用の高出力モーターなどを開発してきたりした実績がある注2)

注2)2019年8月にNECが飛行デモを披露した自社開発のeVTOL機には、多摩川精機のドローン用モーターが採用された。

 こうした技術をベースに、eVTOL機に使える100kWクラスの高出力モーターの開発を目指している。「eVTOL機用のモーターは、安全対策も含めてとにかく軽くないとダメ。重量出力密度を高める必要がある。目標は8kW/kgだが、この実現は大きなチャレンジだ」(専務の熊谷秀夫氏)。

 既に同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の先導研究プログラムで、2021年7月までに出力20kWで出力密度4.4kW/kgのモーターを開発した(図4)。

図4 多摩川精機が開発した4.4kW/kgのモーター
図4 多摩川精機が開発した4.4kW/kgのモーター
NEDOのプロジェクトで開発した、出力20kW、出力密度4.4kW/kgのモーター(写真:多摩川精機)
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 現状、世界各所で開発が進められているeVTOL機に搭載されているモーターの出力密度は1〜2kW/kgレベルが多いため、このモーターは十分競争力があるとしている。磁石の配列を工夫するなどの最適化設計、励磁損失の少ない巻線、熱対策として熱伝導率が従来比10倍の材料の採用などで高出力密度化を達成したという。

 さらに同社は、NEDOの委託研究事業で100kWのモーターを開発中で、こちらは出力密度6kW/kgを目指しているという。2023年には開発が完了し、2024年ごろに機体に搭載して評価が始まる可能性があるという。