2003年に本放送が始まった地上デジタル放送(地デジ)の“更新”が検討されている。総務省が狙うのは、衛星放送で一部成功した4K放送のさらなる強化、普及だ。ただその一方で、8K放送は事実上の失敗状態。しかも、インターネットの動画配信サービス「YouTube」や米Netflix、さらには5Gベースの“放送”技術が黒船となって押し寄せており、従来の広くあまねくの放送の枠組み自体が揺らいでいる。
今、次世代地上デジタル放送(次世代地デジ)技術の議論が総務省で進められている。現時点では、2018年に始まったBS(放送衛星)またはCS(通信衛星)の「新4K8K衛星放送」で「4K†」などの番組が視聴可能だが、次世代地デジでは衛星放送やケーブルテレビではなく、テレビ塔から電波を送信することで4K以上の高精細コンテンツを視聴できるようにするのが狙いだ。
技術仕様策定の事務局である総務省放送技術課は、この取り組みの理由を「2003年に地上デジタル放送が(首都圏などで)導入されてから来年で20年。海外でも技術刷新の動きがあり、日本で何もしないわけにはいかないから」だとする注1)。実際、総務省は2019年に始めたこの技術仕様の策定作業を、2023年度に完了させる計画である。
8Kが事実上消えた
ただ、この計画には2つの大きな疑問が湧く。1つは、議論の中で「8K」という言葉がほとんど出てこない点。大半は4K、または「UHD(Ultra High Definition)」という言葉が使われている。UHDは、4K以上という意味で、8Kを排除はしていない表現だが、議論中の技術仕様のパラメーターを見る限り、8Kはほぼ想定されていないのが実態だ。
もう1つの疑問は、どの周波数帯の電波を使うかを決めていない点。これまで放送や無線通信の世界で新しい技術を導入する際は、まずどの周波数帯を使うか、そしてその周波数帯に割り当てられている既存の用途をどうするかを考えるのが第一歩だった。ところが今回はその議論がまったくない。