中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)は2019年、国際電気通信連合(ITU)に、インターネットの根幹をなす「IP(インターネットプロトコル)」に代わる新仕様「New IP」を提案した。ファーウェイのNew IPは、その存在が明らかになってから3年が過ぎた現在も世界に物議を醸し続けている。
1990年代に商用化されて以降、グローバルで単一のネットワークとして世界で大きな発展を遂げてきたインターネット。そのインターネットの根幹を支える仕組みが「IP(インターネットプロトコル)」だ。IPはインターネットでデータをやり取りするための手順を定めており、1970年代に基本的な仕組みが開発された。
IPの仕組みは非常にシンプルだ。「ヘッダー」といわれる先頭部分にデータの送信元と送信先の住所に当たるIPアドレスをそれぞれ記載する。その後ろの「ペイロード」と呼ばれる部分に、送受信するデータを格納する。これらのデータは「パケット」と呼ばれる通信単位ごとに小分けされ、宛先のIPアドレスに向けて、ルーターと呼ばれる機器がバケツリレー方式で転送する。これがインターネットの基本的な仕組みだ。
IPの基本思想は、「どこかで機器が壊れても、なんとしてもつなぐ」という機能に徹している点だ。速度保証ができない「ベストエフォート」の通信となるが、機器が壊れても自動的に経路を迂回することで、粘り強く通信を確立する。ネットワークを信頼せず、ネットワークに必要な機能をシンプルにする代わりに、端末側を賢くするというのがIP、そしてインターネットの基本思想だ。このようなIPの思想が、どんな環境でも受け入れられる裾野の広さを生み、世界にこれだけインターネットが広がった原動力であるといえる。
ただIPの基本的な仕組みが登場してから半世紀近くが過ぎ、IPの仕組みの限界も指摘されるようになってきた。インターネットのアプリケーションが多様になり、ロボットの制御や自動運転のアシストなども視野に入るなか、速度保証できないIPがボトルネックになっているという指摘もある。そもそもIPは仕組み上、セキュリティーについても十分に考慮されていない。
過去何度かIPを根本から作り替えて、インターネットをまっさらな「クリーンスレート」の状態でつくり直そうという動きが登場してきた。しかしそのたびに、世界へと広がったIPの巨大なエコシステムを前にして、消え去ることが繰り返されてきた。
だが2019年に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が中心となって国際電気通信連合(ITU)に提案した、その名も「New IP」は、その存在が明らかになってから3年が過ぎた現在も世界に物議を醸し続けている(図1)。インターネットの根幹が、「IP」と「New IP」という技術仕様によって分裂していくのか。世界は過去にない大きな局面に差し掛かっている。