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「次世代のパワー半導体は高いから売れないだろう」。こうした予想の斜め上をいく、軍事や宇宙といった特殊用途でウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体に期待が集まり始めた。これらの用途は要求性能を満たすことが最優先で、多少の高コストには目をつむる傾向にある。例えば米軍では技術確立を目指して予算を急増中だ。量産が始まれば、UWBG半導体は製造プロセスの性質上SiCよりも安く供給することは決して不可能ではない。

 パワー半導体材料で注目株の酸化ガリウム(Ga2O3)が、2023年にいよいよ市場に登場する(図1)。シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)に次ぐ久々の新材料だ。デバイス構造はショットキーバリアダイオード(SBD)で、電源の力率改善(PFC)回路などでの活用が見込める。今後Ga2O3が急拡大して、2030年にGaNの市場規模を抜くとの予測も出ている。

図1 酸化ガリウムSBDが2023年に相次いで実用化
図1 酸化ガリウムSBDが2023年に相次いで実用化
酸化ガリウム(Ga2O3)を手掛けるFLOSFIAとノベルクリスタルテクノロジーの開発品の一例。両社のショットキーバリアダイオードが載った電源が市場に出てくる(a、b)。富士経済はGa2O3の2030年の市場規模がGaNを上回ると予測している(c)(図と写真:(a)と(b)は日経クロステック、(c)は富士経済の調査を基に日経クロステックが作成)
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 Ga2O3を筆頭とした「ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体」〔一般にバンドギャップエネルギーがGaN(3.4eV)より広い材料の総称〕は、低損失化(SiC比3分の1以下に減少)と高耐圧化、一部は高周波動作に向き受動部品を小型化できる。近年Ga2O3以外の材料にもブレークスルーが多くあり、2030年ごろにはその種類が一気に増えそうだ。