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SiCの次を狙う「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」の中でも、酸化ガリウムを使ったパワー半導体デバイスは産業化が最も早く進んでいる。酸化ガリウムはSiCの数倍の潜在能力を秘めており、2023年には民生電源用途での搭載が始まる見込みである。2030年には車載市場への参入も計画されている。

 大電流・高耐圧で動作させられることから、パワー半導体での今後の主役と目されるSiC。既に、電気自動車(EV)や鉄道、太陽光発電用のインバーターなどでの普及が進みつつある。このSiCを脅かすかもしれない存在が台頭してきた。酸化ガリウム(Ga2O3)だ(図1)。

図1 酸化ガリウムの開発状況とパワー半導体の市場
図1 酸化ガリウムの開発状況とパワー半導体の市場
2010年ごろから研究が始まった酸化ガリウムは今日まで急激な成長を遂げてきた。今、社会実装の段階へ進もうとしている。民生用電源などで市場に普及させた後、2030年ごろには車載市場へ参入が検討されている(図:日経クロステックが作成)
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 酸化ガリウムを使ったパワー半導体デバイスは、SiCの次を狙う「ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体」の中でも、産業化が最も早く進んでいる。2010年ごろから酸化ガリウムのパワー半導体応用の研究が本格化した後、2022年には、ショットキーバリアダイオード(SBD)の量産化が予定されている。2023年には、このSBDが搭載された空調装置が市場投入される見込みである。民生電源用途のPFC(力率改善)回路での引き合いが強いという。

 酸化ガリウムのデバイスを採用することで、「SiCと比較して(同じ条件で利用した場合)電力損失が約3分の1、値段も今後の技術開発が必要だが、チップレベルで約2分の1から3分の1にできる可能性がある」とβ酸化ガリウムのパワー半導体基板やデバイスを開発するノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市) 社長の倉又朗人氏は言う。現在信頼性検証などは途上にあるが、「こうした点も含めて、(本格的な)実用化に向けた基礎研究は後2年で終わる」(倉又氏)とする。

 さらに、2030年には、SiCの本丸ともいえるEVのモーター駆動インバーターとして搭載が進む可能性が高い。「従来はクルマへの採用は検討開始から5年はかかったが、最近は(新技術採用の競争激化から)新しいデバイスの採用のスピードが速まっている。特に、新規参入の企業はどんどん取り入れていくだろう」とα酸化ガリウムのパワー半導体基板やデバイスを開発するFLOSFIA(フロスフィア、京都市) 社長の人羅俊実氏は言う。