全5085文字
PR

他の参加者と自分のアバター(分身)を介して交流したりできるインターネット上の3次元(3D)仮想空間「メタバース」。経済活動の場としても大きな可能性を秘めているが、世の多くの人にとってはいまだに参加の敷居が高い。今回のCESでは、日本企業による、その敷居を下げるための超軽量なハードウエアや安価なソリューションの提案が目を引いた。

 「目標は世界最軽量。持ち運びができてスマートフォンのように気軽に使えるという提案を通じて、日常にXR注1)の世界を持ち込みたい」(シャープ通信事業本部新規事業推進部課長の岡本卓也氏)

注1)XRは「Extended Reality」もしくは「Cross Reality」の略。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった現実世界と仮想世界を融合する技術を通じて、新しい体験を作り出す技術の総称。

 シャープは「CES 2023」で、軽量性と高精細映像を両立した、メガネ型のVR(仮想現実)用ヘッドマウントディスプレー(HMD)のプロトタイプを出展した(図1)。重さは約175g(接続用ケーブル除く)。バッテリーは搭載せず、USBでスマホと常に接続し、計算処理をスマホに委ねることなどによって、業界最軽量クラスを実現した。 

図1 シャープがCESで初公開したVR用HMD
図1 シャープがCESで初公開したVR用HMD
重さは約175gと軽量性を重視した。日常にXRの世界を持ち込むことを目指している。写真のマネキンの胸付近にある黒いものは、HMDの持ち運び用収納ケース(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 現状はプロトタイプなので精緻な比較はできないものの、175gという重さは、VR用HMDで最も人気が高いスタンドアローン型の「Meta Quest 2」(米Meta Platforms〔メタ・プラットフォームズ〕)の503gと比べて大幅に軽い。プロトタイプと同様、スマホに接続して使う台湾HTCの「VIVE Flow」の189g(接続用ケーブル除く)と比べても軽量である。

 開発を手掛けたシャープの岡本氏は、「既存のHMDは装着の負担が大きいため、多くの人にとって常用のハードルが高い。そこで、移動中や仕事の休憩中などに1~2分間VRコンテンツを楽しんで、すぐに外すようなライトな使い方を想定して開発した」と語る。

 もちろん、プロトタイプは単に機能を削ることで軽量化を追求したわけではない(図2)。例えば、液晶ディスプレー(LCD)は片目で2K、1200ppi(ピクセル/インチ)と高精細で、120Hz駆動の自社製のVR向けを採用している。両目で4Kは、ハイエンドHMDの標準クラスと同等の解像度だという。

図2 開発したHMDの構造図
図2 開発したHMDの構造図
片目2KのLCDはスマホ用の2倍以上の解像度。RGBカメラは正面から外界を撮影し、近接センサーはHMDを装着しているかどうかを認識する。また、この図にはないが、加速度センサーと角速度センサーも搭載している(出所:シャープの図を基に日経クロステックが加筆)
[画像のクリックで拡大表示]

 また、素早いピント合わせと、ピント調整時の画角の変化で発生する「VR酔い」を軽減するRGBカメラモジュールを搭載している点も特徴の1つである。

 さらに、加速度・角速度センサーと2個のモノクロカメラでユーザーの体の位置や傾きを把握するほか、モノクロカメラで装着者の手の動きを認識してVR上の操作に反映する「ハンドトラッキング機能」にも対応する。操作用のコントローラーがなくても直感的な操作ができるという。