CESでヘルスケア分野や医療分野の課題を様々なデジタル技術で解決する「デジタルヘルス」の存在感が増している。以前からCESに足を運んできた参加者から驚きの声が上がるほどの盛況ぶりだ。「CES 2023」では、自分の健康状態を手軽に確認して遠隔医療を支援する技術や、嗅覚を含めた五感を活用してヘルスケアに生かす技術などが注目を集めた。
デジタルヘルスの存在感が増す兆しは前回「CES 2022」からあった。医療機器などを手掛ける米Abbottが、ヘルスケア企業として初めて基調講演に登場して話題となったのだ。今回の「CES 2023」では本格的に出展企業や来場者が復活し、デジタルヘルス関連の展示スペースも拡充された。
デジタルヘルス関連の展示は従来、スタートアップの発表が比較的多いベネチアン・コンベンション&エキスポセンターの会場に集まっていた。同会場はCESのメイン会場といえるラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)から2.5kmほど離れた場所にある。しかしCES 2023では従来の会場に加えて、自動車やAI(人工知能)関連などが集まるLVCCにも進出。LVCCを構成するホールの1つであるNorth Hallの一角に、デジタルヘルスのゾーンが設けられた。
CES 2023公式アプリによると、デジタルヘルス関連の出展企業や団体は467に及んだ。スタートアップやスポンサータイプといった大きな分類を除くと、最も多い出展企業や団体のカテゴリーは「IoT/センサー」で632社。これに「AI」の581社、「スマートホームと電化製品」の541社、「車両技術」の514社、そしてデジタルヘルスが続く。デジタルヘルスは、出展企業のカテゴリーとして一大勢力となりつつあるのだ。
CES 2023におけるデジタルヘルス関連の展示内容は多岐にわたるが、大きく(1)日常生活の中で手軽に実施できる健康の維持、(2)Telehealth(遠隔医療)を支援する生体データの測定、(3)視覚と聴覚、嗅覚などの五感を活用したヘルスケアや治療という3つに分類できた(図1)。
自宅で不調を早期発見
(1)日常生活の中で手軽に実施できる健康の維持としては、特に不調の早期発見を目的とした機器の展示が目立った。例えば米Opteev Technologiesが展示したのは、呼気を吹き込むとウイルスが含まれるかどうかを確認する検査用デバイス「ViraWarn」だ(図2)。現在、米食品医薬品局(FDA)からの承認取得を目指し、米国とインドで臨床試験を実施している段階だという。
ViraWarn内で呼気が通過する流路の途中には導電性バイオセンサーを配置してある。呼気にウイルスが含まれている場合は、このセンサーにウイルスが接触して付着。ウイルスは表面に電荷を帯びているためセンサーの電気抵抗率が変化する。その変化をAIで解析し、呼気中にウイルスが含まれるかどうかを判定する。
なお、導電性バイオセンサーの下流側にはHEPAフィルターを設置し、ウイルスが排出されるのを防ぐ。また、センサーやフィルターはカートリッジ化されており、交換可能としている。1日複数回ウイルスチェックを実施すると、カートリッジは月に2回ほど交換することになるという。
検出したウイルスの種類は判別できないが、新型コロナウイルスのほかにもインフルエンザウイルスや子供がかかりやすいRSウイルスなどのスクリーニングに利用できるとしている。また同社によれば、ウイルスがセンサーに接触した際の電気抵抗率はウイルス変異の影響を受けないため、変異株が出現しても検出可能だという。
こうしたデバイスでウイルスチェックができるようになれば、「気兼ねなく親族の高齢者をハグできる」とOpteevの担当者は話していた。普及させるため、デバイスやカートリッジの価格も抑える方針だ。「カートリッジは数米ドル、デバイス本体は付属するカートリッジの数に応じて50~99米ドルほどで販売する予定」(Opteevの担当者)としている。