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自律的な農機・ロボで食料不足解消
Deereが従来比2倍の種まき可能に

 世界的な食料不足の懸念に対し、農業・食品分野に新技術を導入して解決を目指す取り組みが盛んになってきた。「CES 2023」では、農業機械の自律化や電動化、新しいロボットなどが関心を集めた。

 「John Deere(ジョンディア)」ブランドで知られる農業機械大手の米Deere(ディア)は今回、ロボティクス技術によって従来比2倍の種まきを可能にした農業機械(プランター)の新製品を発表した(図1)。2023年春の出荷開始を予定する。種まきに適する期間は1年のうちで限られるので、収穫量を上げるためには高速な種まきが重要だという。

図1 従来比2倍の種まきを可能にした農業機械
図1 従来比2倍の種まきを可能にした農業機械
種が土の中に入っていくタイミングをセンサーで感知し、必要な分の肥料を、種が土に入る瞬間に直接散布できる(写真:日経クロステック)
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 このプランターは種が土の中に入っていくタイミングをセンサーで感知し、必要な分の肥料を、種が土に入る瞬間に直接散布できる。これにより、種まき時に散布する肥料の量を従来比で6割以上削減できる。加えて、無駄な肥料が雑草の成長を促進したり、畑から水路に流れ出たりすることを防止しやすい。

 自律走行可能なトラクターもアピールした。これは、2022年のCESで発表したもの。GPS(全地球測位システム)の他に、周囲の状況を認識するためのステレオカメラを前方に3台、後方に3台、計6台搭載する。画像認識技術で自律走行を可能にした。データ処理などは米NVIDIA(エヌビディア)のGPUで行う。

 電動化では、バッテリー(2次電池)の電力で駆動するフル電動の建設機械(ショベルカー)を新たに発表した。買収したオーストリアKreisel Electric(クライゼル・エレクトリック)の技術を基に、独自開発の電池パックを搭載した。容量が約63kWhのバッテリーモジュールを2つ搭載する。クライゼル・エレクトリックがもともと採用していたことから、新製品でも韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)の電池セルを採用した。急速充電器も独自開発した。

AIやセンサーで食品ロスを削減
野菜や果物の熟度をセンサーで推定

 農作物の収穫から調理、廃棄までサプライチェーンの各工程で、テクノロジーによる食品ロス削減の動きが活発になっている。今回、出荷した農作物のロス削減に向けたセンシング機器を披露したのは、オランダのスタートアップOneThird(ワンサード)である。

 同社は、赤外線センサーを利用し、収穫した野菜や果物の熟度を推定するシステムを出展した(図2)。例えば、熟度が高い野菜を倉庫から近い店舗に、低い野菜を遠い店舗に輸送することで、なるべく長い時間、店頭に並べられるようにして食品ロス削減につなげる。ハードウエアを販売するのではなく、データ分析とともにサービスとして提供するサブスクリプション型の事業を手掛ける。これまで欧州で事業を行っており、北米にも展開する予定だ。現在はイチゴとアボカド、トマト、ブルーベリーに対応しており、今後に向けてマンゴーやバナナ、モモ、ブドウに対応した機器を開発中である。

図2 イチゴの熟度を推定する卓上型センシング機器
図2 イチゴの熟度を推定する卓上型センシング機器
スマートフォンの画面に結果を表示。イチゴのほかにアボカド、トマト、ブルーベリーに対応している(写真:日経クロステック)
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 飲食店の食品ロス削減に向けたシステムを販売するのは、同じくオランダのスタートアップOrbisk(オービスク)である。ゴミ箱の上方にセンサーユニットを設置し、画像認識によって、捨てられた食材の種類や量などを認識する(図3)。加えて、皿から捨てられた場合は客の食べ残し、まな板から捨てられた場合は調理時のロスなどと、ロスが発生した場所も判別できる。こうした結果を基に、食材の仕入れ量の調整が可能になる。

図3 捨てられた食材の種類や量などを認識できる装置
図3 捨てられた食材の種類や量などを認識できる装置
ゴミ箱の上方にセンサーユニットを取り付けて捨てられた食材の種類や量を把握する(写真:日経クロステック)
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