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米国の対中国半導体規制がすさまじい。2022年10月には先端製造装置の輸出に厳しい規制を敷いた。中国はもはや先端プロセスを製造できないのか。日本の半導体産業への影響は。中国の半導体情勢に詳しいSEMIジャパン CS部 インダストリースペシャリストの青木慎一氏に聞いた注1)

注1)本記事は2022年12月22日に日経クロステックに掲載した記事を再録した。

2022年10月、米国が中国に対する半導体規制を強化する決定を下しました。具体的には、16/14nm世代プロセス以下の先端ロジック半導体などに厳しい貿易規制をかけています。これを受けた中国の状況は。

 まず、中国の半導体市場全体でみると影響はさほど大きくありません。この規制の影響は15%程度でしょう。中国で製造されている半導体は非先端のレガシー半導体が市場の8割を占めるからです。

 電気自動車(EV)などに使われるパワー半導体には、基本的に微細化が必要ありません。先端プロセスを用いないレガシーな半導体に強いニーズがあるので、中国の半導体産業の興隆は止まらないというわけです。

対して、先端半導体はスーパー/量子コンピューターやAI(人工知能)、軍事産業などに欠かせません。製造装置がそろわない以上、先端半導体分野では減速していくということでしょうか。

 そうですね。度重なる規制を受けて、今後他国との差は徐々に開いていきます。

 ただ、先端半導体をまったく作れなくなるわけでもありません。先端半導体装置は歩留まり率を高めるためにも必要になりますが、これを低くしてでも造るかもしれません。

 中国のファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、ここ2、3年でニーズ以上に製造装置の発注をかけています。同社は2020年に「エンティティ―リスト(米国禁輸リスト)」に追加されましたが、近い将来にラインが止まることを見越してか、余分に装置を買っているのです。

 とはいえ、こうした動きは一時しのぎです。今後1~2年の期間で減速していくでしょう(表1)。

表1 米国の対中半導体規制をめぐる出来事
バイデン米政権(2021年1月以降)で中国に対する規制は増すばかりだ(出所:日経クロステック)
表1 米国の対中半導体規制をめぐる出来事
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米国は先端半導体の製造に重要なEUV(極端紫外線)露光装置についても中国に渡らないよう動いています。

 EUV露光装置を使わずとも先端半導体を製造することはできるのですが、量産には不向きです。

 例えば、SMICは同装置を使わず、7nm世代プロセス半導体の製造に成功したとしています。前世代のArF(フッ化アルゴン)液浸露光装置を使い、2回に分けて露光する「ダブルパターニング技術」で実現したようです。同技術であれば、例えば14nm世代プロセスの製造装置でも7nm世代プロセスを実現できます。

 その先として3回露光する「トリプルパターニング技術」も存在していますが、コストや作業効率といった生産性を考えるといずれも量産化は難しいです。

中国が先端半導体の製造ラインを持つのはかなり難しいということですね。

 ところが、中国国内で“くさい”動きが出てきました。「大学や研究所であれば一般的な半導体規制にかからない」という抜け道を使おうとしているかもしれません。

 米国の対中半導体規制は、製造ラインを持つ工場などに向けたものです。つまり、生産品目を持たない一般的なラボには当てはまりません。

 私は、中国内の大学などに先端半導体装置をリースし、国内で流動化する動きが広まっているとみています。単品の半導体製造装置を国内のさまざまな研究所に分散し、後で回収して1カ所に集めます。すると、半導体製造工場を作れるだけの装置がそろっているというわけです。

 つまり、このような流れです。中国のリース会社が国内のある大学に、例えばプラズマCVD(化学蒸着法)装置を貸し出します。別の大学には異なる半導体製造装置を貸し出し、各所に点在させます。後で中国政府の指示の下、リース会社がさまざまな装置を1カ所に集めます。組み合わせれば、先端半導体の製造ラインができてしまいます(図1)。

図1 青木氏は「中国政府が製造ラインを持たない大学などの研究機関を通して、先端半導体工場を作れるのではないか」と推測する
図1 青木氏は「中国政府が製造ラインを持たない大学などの研究機関を通して、先端半導体工場を作れるのではないか」と推測する
(出所:青木氏の発言を基に日経クロステックが作製)
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 中国にリース会社の発想が出てきたのは、(対中半導体規制が強まった)2019年ごろからです。それ以前の中国では、日本のリース会社が交渉しても断ってきていました。そのような状況から一変して、中国系リース会社が目に付くようになってきました。

一方で、日本も中国向けに半導体ビジネスを展開しています。対中半導体規制は、日本の産業にどう影響するのでしょうか。

 日本の半導体製造装置では、米国由来の部品を一定の割合以上使っているものを中国に輸出できなくなっています。さらに、中国国内で装置が壊れた場合、米国製の補修パーツを取り寄せるのはほぼ不可能です。米国の許可が必要ですが、下りることはまずないからです。

日本の半導体製造装置に米国由来の部品はどの程度含まれているのでしょうか。

 割合でいえば少ないですが、キーパーツでいくつか支障が出てくる部品があります。一般的によく使われているもので言えば、圧力センサーや熱交換器、一部のバルブやポンプなどです。これらの米国のエンティティーリストに関連する承認が必要な部品に関しては、規制がかかるものがあります。

 なお、日本については、今後の動きが見えない部分があります。現状、米国が日本の経済産業省に対中半導体規制への協力を仰いでいます。これがどのぐらい強制力を持ち、また日本側がどう応答するか。結果次第で、状況は変わってくるでしょう。