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先端半導体の量産を主導するTSMC(台湾積体電路製造)を擁する台湾からは、2nm世代プロセスの量産を目指すファウンドリー企業Rapidus(ラピダス)はどのように見えるのか。同プロセスは、世界でも限られたトップファウンドリーが量産を目指す技術である。台湾に拠点を置くアナリスト集団Isaiah ResearchのVice PresidentであるLucy Chen氏に聞いた。

質問
ラピダスは2nm 世代プロセス半導体を量産できるか?

  • 回答
    技術的には可能だろう。ただし、収益性のある量産の実現はまだ難しい。

 2022年11月にラピダスの設立が発表され、2027年までに2nm世代プロセス半導体を量産する計画であることを明らかにしました。Isaiah Researchの見立てでは、量産は技術的には可能です。ただし、歩留まりや生産性を高め、利益を生み出せる水準を達成できるかにはまだ疑問があります。

 2nm世代プロセスの量産が達成可能なのは、海外企業からの支援や、日本の半導体材料・装置への強みがあるからです。

 ラピダスには、最先端の技術開発拠点やイノベーションハブを持つ、米IBMやベルギーimecからの強力な技術的支援があります。

 半導体材料では、同市場の半分以上を日本企業の製品が占めます。具体的には、レジストやエッチングガスで日本企業がほぼ独占しています。

 半導体装置では、東京エレクトロンがエッチング装置で世界最大級のベンダーです。さらに、先端半導体に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置向けのマスクブランクス検査やレビュー装置を手がけるのも、日本企業であるレーザーテックです。同社はEUV露光装置市場の成長に伴い、さらなる受注を見込んでいます。

マスクブランクス=フォトマスクを製造するための材料。

 これらの企業の支援によって2nm世代プロセスは量産可能です。しかしながら、われわれはスケールメリットを生み出す可能性はまだ低いとみています。理由は主に3つ。(1)先端ノードの量産経験不足、(2)資金の不足、(3)先端ノードを必要とする顧客の確保の不透明さ─といった点からです。

 まず(1)として、ラピダスは先端ノードの量産経験が不足しています。ラピダスにとっては、2nm世代プロセスの量産に必要な半導体装置や材料を手に入れるのは容易だとしても、一定のスケールメリットを得るにはプロセスインテグレーションや生産性の向上に向けた調整など課題が山積みです。

プロセスインテグレーション=製造工程を組み合わせ、互いに矛盾しないようにして製造すること。

 2nm世代プロセストランジスタの基本構造として、GAA(Gate All Around) FETが挙げられます。GAAは部分的には前世代のFinFETから製造します。ラピダスにとっては、GAAあるいはFinFETの量産技術ノウハウを得ることが重要になります。

 ただ、このFinFETの量産技術をどこから得るのかが問題です。日本企業の現状の最先端ノードはルネサス エレクトロニクスの40nmプロセスで、CMOSプロセスとMCU(Micro Controller Unit、マイクロコントローラー)製品の生産技術に基づいています。10nm世代プロセス以降のノードを開発するには、GAAやFinFETのようなトランジスタの製造経験が要ります。両技術はリーク電流やエネルギー損失を制御するカギであり、これなしに2nm世代プロセスを高い歩留まり、かつ高性能で量産することは難しいからです。