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社員は優秀、だから道はある

 ただ、そんな状況でも従業員は優秀でした。私は折を見て従業員1人ひとりと直接話をする機会を作っていたのですが、話してみると正直に言って三菱重工全体でもかなり上のレベルに入る技術者がたくさんいた。

 工作機械業界には、高い売上高や利益を上げ続けている同業がいる。技術力があるなら我々もやり方さえ見直せば答えは必ずあると思いました。そのための改革として進めているのが、品質保証方式の再構築とマスカスタマイゼーション(MC)/モジュラーデザイン(MD)によるものづくりの効率化、マーケティングに基づく事業戦略・販売戦略の3つです。さらに、それらのバックグラウンドとして、風土改革とブランディング改革も進めています。

 2017年4月に社長になりましたが、数年で去るサラリーマン社長の思いだけで改革に突っ走るのは、継続性という点で問題だと考えました。ですから改革は、今後長く勤める従業員らが中心になって進めるようにしました。風土改革プロジェクトとブランディング改革はそのための仕掛けです。

 風土改革プロジェクトではメンバーを公募して35~6人で立ち上げました。プロジェクト内では年齢も役職も関係なし。20代の若手と副本部長クラスがお互いを「さん」付けで呼び合って当社をどんな会社にしたいのか、何が問題なのかといった点をフラットに議論しています。ブランディング・プロジェクトの方は、三菱重工の社是*2とは別に、三菱重工工作機械としてそれをブレークダウンした独自の社是を定めようというものです。これも社内公募で35人ほどが集まり、ブランディングの基となる企業理念と行動指針を定めました。

*2 「顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する」「誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする」「世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める」というもの。三菱第4代社長の岩崎小彌太の掲げた「三綱領」である「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」を基にしている。

 どちらのプロジェクトも従業員やサプライヤー、お客さんとの間の信頼関係、共通のものづくりに対する思いを築き上げて、売り上げや利益につなげていくのが狙いです。信頼関係の基盤となるのはやはり品質ですから、品質に対する共通の思いやこだわりを醸成しようという考えもあります。

中量生産が得意じゃなかった

 では、なぜいま品質保証方式の再構築なのか。一般に量産製品はプロセスで品質を作り込みます。一方、個別受注・個別設計・個別生産のような業態だと、個々に設計が違うので個別に検査する直接検査方式が採られます。1つひとつの製品に対して個別に検査して品質保証するわけです。

 工作機械のように中量産製品の場合、同業他社はプロセスで品質を作り込む量産製品の手法を使っています。直接検査方式だと、品質の維持のために非常に多くの検査員を抱える必要があり、コストが高くなり過ぎるからです。

 ところが、私が来た当時の当社はプロセスで品質を作り込む量産製品のものづくりが得意ではなかった。母体の三菱重工全体が個別受注・個別設計・個別生産中心の会社で、会計の仕組みから何まで全部そうなので仕方がない部分もあるのですが、当たり前のように、直接検査方式を多用していた。実際品質は高かったのですが、コストも高かった。「品質保証方式の再構築」「MC・MD化の推進」はそんなやり方を変えていく取り組みです。検査員がいようがいまいが、仕組み・プロセスで後工程に不良品が流れないようなものづくりをする、それが私の目指す品質保証方式です。

 確かに工作機械は顧客ごとのカスタマイズが多いですが、注文住宅のように全てが違うわけではありません。今までのやり方が本当にいいのかを現場に問うてきました。少々時間はかかりましたが、MC・MD化とともにようやく現場の理解も得られるようになってきました。