切削加工を中心に金属の精密加工での実績を持つ由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)。2006年に立ち上げた開発部は、部品単体の精密加工にとどまらず、機能要素の設計や顧客への提案も手掛ける。21年8月には小型人工衛星用スラスターを開発したと発表。衛星コンポーネントで、宇宙産業への本格参入を狙う。(聞き手は松浦晋也=ノンフィクション作家/科学技術ジャーナリスト)
高砂電気工業と共同で小型の人工衛星用スラスターを開発しました。スラスターとはどのようなものなのか教えてください。
永松:簡単に言えば、小さな液体ロケットエンジンです。人工衛星に取り付けて、その噴射で衛星の姿勢を制御したり、軌道を変更したりします。
そもそもスラスターを開発しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
永松:2018年に経済産業省の「コンステレーションビジネス時代の到来を見据えた小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する研究会」に出席して、バルブメーカーの高砂電気工業の方と知り合ったのがきっかけです。この出会いを機に、18年から高砂電気工業がバルブを、由紀精密がスラスター本体を開発するという役割分担でスラスター開発がスタートしました。
開発したスラスターは直径約12mmです。「ノズル」と「燃焼室」は由紀精密が設計・製造を担当、「バルブ」は高砂電気工業が開発しました。推進剤として過酸化水素を使用し、推力は0.2N。50~200kg級の小型人工衛星での採用を想定しています。
配管のバルブを開くと過酸化水素が燃焼室に流れ込みます。燃焼室には触媒が詰まっていて、ここで分解された過酸化水素が高圧ガスになって噴射され、衛星が移動する推力を得るという仕組みです。
最大の特徴は、推進剤に過酸化水素を使った点です。肝となる触媒も当社で開発しました。構造は簡単に思えるかもしれませんが、確実に動作させるにはさまざまなノウハウが必要で、開発は大変な作業でした。