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全てが良品

 前ページの写真の部品は全て良品である。マーブル模様を実現する成形技術(以下、マーブル成形)では1つとして色や柄が同じ部品はないが、カシオ計算機は材料や成形条件の工夫によって出来上がりの品質を一定の幅に収まるようにコントロールしている。

複数色のペレットを射出成形機に投入

 複数の色が不規則に流れるように混ざり合うマーブル模様(大理石模様)を、カシオ計算機は印刷や塗装などの2次加工ではなく射出成形で実現する。そこでポイントとなるのが、成形材料である熱可塑性ポリウレタン(TPU)の工夫と成形条件の最適化である。

 例えば、ベゼルにマーブル成形技術を適用した「BGA-270M-7AJF」では白色と青色、赤色が混じり合う「夏らしいトリコロールカラー」(同社)を表現した(図1、中央のモデル)。これを実現するため、射出成形機に投入するペレットを3種類用意。白色をベースに青色と赤色のペレットも数%ずつ混ぜた。

図1 マーブル成形を適用した「BABY-G」
図1 マーブル成形を適用した「BABY-G」
色が異なる複数種類のペレットを混在させて射出成形機に投入し、条件を最適化することでマーブル成形を実現している。(写真:日経ものづくり)
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 単に3色のペレットを用意しただけでなく、「ベースの白色は溶けやすく、着色ペレットは溶けにくく、と溶けるタイミングをずらせるように融点に差をつけた」(山形カシオ 時計統轄部部品技術部成形技術課の石山憲史氏)。さらに、ペレットの形状や大きさを調整して着色ペレットの分散性を高め、1ショット(1つの部品)に着色ペレットが確実に入るようにした。わずか数gの部品の中で3色のマーブル模様がきれいに現れるようにしている。

 こうしたペレット段階での工夫に加えて、成形条件の最適化も進めた(図2)。成形温度やスクリューの回転速度といった条件を変えながら試行錯誤し、材料の溶け具合や混ざり合い方をコントロールして最適な模様が出るようにした。例えば、温度が低すぎると着色ペレットがほとんど溶けずにそのまま残ってしまう。逆に温度が高すぎると3色が過度に混ざり合って単色に近くなってしまう。

図2 成形温度による違い
図2 成形温度による違い
微妙な温度の違いでマーブル模様が異なってくる。基本的に温度が高い方が各色のペレットが混ざり合って均一の色になる。(写真:日経ものづくり)
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 「条件を細かく変えながら成形テストを繰り返し、その都度成形サンプルを他の開発メンバーに見せて確認した」(同氏)という。こうして、製品としてあるべきマーブル模様のイメージを共有しながら最適な条件を見つけていった

* マーブル成形で使用する金型は通常の単色成形で使用する金型と同一のもの。本来であればマーブル成形に特化したゲート位置などを設定したいところだが、生産数量とコストの関係から金型は共通化する必要があったという。