「マレーシアの新たな地域連携の仕組みとして、さまざまな分野の製造業企業が集合して業界の枠を超えた価値を提供したい」(コニカミノルタ執行役生産本部長の竹本充生氏)─。マレーシア・マラッカ州で、新たな枠組みの工業団地が稼働を開始した。複数のサプライヤーを集積させるとともに、顧客であるセットメーカーも含めたネットワークでつなぎ、在庫や品質の情報を共有したり、物流を一元化したりして高効率生産とコスト削減を目指すものだ。
「スマート・インダストリアル・センター(Smart Industrial Center)」(以下SIC)と呼ぶこの枠組みは、同州に工場を持つコニカミノルタの主導で立ち上がった(図1)*1。2019年6月10日には、同国首相のマハティール氏や同州首長のAdly bin Zahari氏、日本の在マレーシア大使の宮川眞喜雄氏ら、そうそうたる来賓を招いてSIC現地でオープニングセレモニーが開かれた(図2)。
*1 SICを運営するのは、サプライヤーらから成るSICコミッティー(委員会)であり、コニカミノルタはオブザーバーとして支援している。
仮想の共同企業体を目指す
10万m2以上に及ぶSICの敷地には現在、コニカミノルタの他、日本の港湾物流大手の上組、コニカミノルタのサプライヤーであるマレーシアJP Technologiesや中国・Maxim Mould&Plasticなど、2019年6月時点で8社が工場や倉庫を構える。さらに5社の進出も決まっている。
そのコンセプトの中核は、複数のサプライヤーが一体となって活動する企業連携「バーチャル・ワン・カンパニー」にある(図3)。例えば情報連携という面では、セットメーカーとサプライヤー間、サプライヤー同士で設備の稼働状況や生産計画、在庫などの情報を共有し、生産計画や在庫計画の最適化を図る。物流面ではサプライヤーが隣接することから配送ルートの短縮が期待できる他、AGVや自動倉庫などの導入を推進する。情報連携によってベンダーマネジメントインベントリー(VMI)も取り入れる。SICでサブアッシーをアセンブリした上でのセットメーカーへの納入も可能になる。
加えて、設備の稼働状況を可視化するITシステムや、自動機・ロボットといった自動化設備の導入も進め、生産効率の向上を図る。この他、共通する間接業務の集約、集中購買による調達コスト削減といった効果も見込んでいる。
SICの大きな特徴は、これら情報連携や自動化の推進をコニカミノルタが全面支援する点にある。自動化設備やロボット、データ連携の仕組みなどの導入・活用は、それらの知見に乏しいサプライヤーには難しい。そこで、資金こそ出さないものの、コニカミノルタが同社マレーシア工場で培った技術や知見を提供しSICのコラボレーションを推し進める。
マレーシア工場は、同社が提唱する自動化やIoT化を駆使した工場のコンセプト「デジタルマニュファクチャリング」の最先端工場。そこで培った知見・ノウハウをSICにつぎ込み、サプライヤーの生産や物流の高度化を図る。サプライヤーの生産効率向上やコスト削減は、コニカミノルタにとってもメリットとなるからだ。
オープニングセレモニーに登壇したコニカミノルタビジネステクノロジーズマレーシア代表取締役社長の吉田秀幸氏は、「我々のビジネスパートナー(サプライヤー)はデジタルマニュファクチャリングの概念を良く理解し、この新しい製造モデルでの相互協力を進めている。SICがオープンイノベーションを伴う製造業クラスターの新しいモデルになる」と語った。
SICは、コニカミノルタのサプライチェーンだけにとどまる構想ではない。その先には家電や自動車など多様なセットメーカーのそのサプライヤーを集め、クラスターを形成してマレーシアの中小製造企業の競争力を引き上げる狙いがある。そのため2020年までに28万m2弱まで敷地を拡張し、6億リンギット(1リンギット26円で約156億円)を投資する。