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戦略2 顧客ニーズを徹底追求

 世界の各市場で個別の顧客ニーズは異なる。そこで、ダイキンは「現地密着型開発」と呼ぶ戦略を採った。開発設計の現地化である。これがダイキンが打ち出した第2の戦略である。狙いは、世界のそれぞれの市場に適した製品を供給することだ。

 このために、開発拠点の世界進出を図った。同時に、世界各地で開発設計の人的リソース(技術者)の確保に動いた。日本に加えて欧州、中国、中国以外のアジア、米国に合計10カ所の開発拠点を設置し、現地で技術者を採用したのである。

戦略3 競合製品の弱点を突く

 そして、第3の戦略は、競合企業に狙いを定めた「攻めの開発設計戦略」である。韓国・中国メーカーの製品の特長や弱点をつまびらかにし、品質で差を付ける製品に仕上げる。このために、競合製品を丸裸にした。すなわち、徹底的な分解と分析、そして評価である。

 例えばインドでは、かつて周囲の市場シェアでトップに君臨していた韓国LGをベンチマークに設定。現地の開発拠点で同社のエアコンを分解して分析している。例えば、LGが競合企業を圧倒するような低価格な製品を市場投入すると、その安さの秘密を探るのである(図2)。

図2 低価格を前面に打ち出したLG製品を分解・分析
図2 低価格を前面に打ち出したLG製品を分解・分析
安価にできた開発設計上の理由を突き止める。(写真:日経クロステック)
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 図3は、低価格を前面に打ち出した家庭用エアコンの室外機の熱交換器。配管に高コストの銅を極力使わずにアルミニウム(Al)合金を使っていると突き止めた。しかも、熱交換器は1列のみ。一見、秀逸な低コスト設計のように思える。だが、ダイキンの技術者の目には、これでは腐食に弱いと映る。というのも、インドでは塩害や腐食性ガスによる腐食が激しいからだ。

図3 安価なLGの室外機の熱交換器
図3 安価なLGの室外機の熱交換器
銅の代わりにAl合金を極力使って低コストにしていた。(写真:日経クロステック)
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 このLGの製品は市場で品質不具合を起こしたのではないかとダイキンは見ている。そう推測するのは、わずか半年ほどでLGが設計をガラリと変えてきたからだ。図4は、設計変更後の熱交換器。金色に光る熱交換器で腐食性に強く丈夫であることを前面に打ち出してきた。熱交換器の表面に樹脂コーティングを施して耐腐食性を高めたのだ。

図4 設計変更を施したLGの室外機の熱交換器
図4 設計変更を施したLGの室外機の熱交換器
熱交換器の表面に樹脂コーティングを施して耐腐食性を高めていた。なお、熱交換器の色(金色)に機能上の意味はない。(写真:日経クロステック)
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 加えて、熱交換器は2列に増やして冷房能力も増している他、配管も材料を変えた上に被覆材も変えていた(図5)。熱交換器については1列では能力不足だったのだろう。配管の耐腐食性も高める必要があったと見られる。当然、コストはアップしている。この比較を見る限り、設計変更前が秀逸な低コスト設計だったとは言えないようだ。

図5 LGが施した設計変更
図5 LGが施した設計変更
熱交換器を1列から2列にし、配管の材料と被覆を変えている。わずか半年ほどでここまで大幅に設計を変更してきたことから、市場での品質トラブルがあったとダイキンは見ている。(写真:日経クロステック)
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 こうしてダイキンはLGに限らず競合企業の製品を丸裸にし、その開発設計上の弱点を突いて開発設計に生かす。それを可能にするのが、充実した評価体制の構築だ。競合製品の弱点を把握した上で、自社の製品の機能や性能、耐久性を引き上げる。例えばインドの開発拠点では、信頼性試験室から性能試験室、騒音試験室、塩害試験室、部品評価試験室、落下衝撃試験室まで備えている。これらの設備により、日本とは使用環境が大きく異なる海外の市場でも高い信頼性や耐久性を確保し、競合製品に差を付けるのである。

 競合企業の製品の徹底分析と評価システムの充実を生かし、勝てる商品を仕立てる技術力が、「アレンジ設計」である(図1)。これが4番目の戦術だ。

 アレンジ設計は、コスト競争力に優れるベースモデルを基に、現地の顧客のニーズを捉え、かつ競合企業の弱点を織り込みつつ現地の環境に適した製品を開発設計する。これにより、機能や性能、品質において顧客の満足度が高く、リーズナブルな価格の製品の開発設計が可能になった。

 こうした戦略と戦術によって、例えばインドでは家庭用エアコンの市場シェアでLGを追い抜いた。また、業務用エアコンを含む空調事業の売り上げでも同国でトップに立っている。