日本電産が電気自動車(EV)向け駆動用モーター事業の強化に向けて大胆な手を打った。2020年2月4日、2019年1月に入社した元日産自動車幹部の関潤氏が社長に就任すると発表した(図1)。EV向けの大型モーター事業のてこ入れを狙う。
「10兆円企業を作る同志」
日本電産は、2030年までに同市場で35%の世界シェア獲得を目標に掲げる。関氏は、同社会長兼CEO(最高経営責任者)の永守重信氏が、EV向け駆動用モーター市場攻略に向けた人材として招請したもの。2019年12月に日産自動車でナンバー3に当たる副最高執行責任者(COO)に就任していたが、2020年1月に特別顧問として日本電産に入社していた。社長交代は2020年4月1日付け。さらに同年6月17日の定時株主総会および取締役会の決議を経て代表権を取得する予定となっている。
記者発表会で永守氏は、「絶好の人材がきてくれた。一緒に10兆円企業を作っていく同志が見つかったと安心している」と関氏を高く評価。招請の狙いについて、「エンジンからモーターへの切り替えは過去にない技術革新。当社がそれに対応するにはものづくりのプロが必要だ。(EV向け駆動用モーターという)社運を懸けた事業を指揮してもらう」と語った。
永守氏はEV向け駆動用モーター事業のけん引役になる存在としてかねてから関氏に目を付けていたという。「(関氏が日産自動車の)社長になると思い、(いったんは)あきらめていたが、そうはならなかった。そこで10兆円企業を作るのに必要な人材だと言って口説いた。絶好のチャンスだった」(永守氏)。
一方の関氏は、「『だまされたつもりで来い。必ず幸せにしてやる』と口説かれた。企業のサステナビリティーは成長の下にしかない。成長を担保するのが唯一無二の施策。そんな私に10兆円企業を一緒に目指そうとの誘いは魅力的だった」と明かす(図2)。
同氏は日産時代、長くパワートレーンの生産技術部門を担当してきた。日本電産が最も注力している中国市場にも詳しい。関氏は2013年から2018年まで中国に駐在し、日産の中国事業を統括してきた。日産の現地ブランド「Venucia」でEVを投入するために、部品のコスト低減に取り組んだ経験もある。
当面は、「いま一番頭の痛い問題」(永守氏)というEV向け駆動用モーター事業のてこ入れとして、生産能力の拡大や原価低減を図るのが関氏の役割。その上で永守氏と関氏の両氏で事業全体を分担し、ツートップ体制で10兆円企業を目指すとしている(図3)。
「こんなきれいな現場は見たことない」
日本電産のものづくりについて関氏は、「日本電産の現場は強い。ここまできれいな現場は見たことがない」と高く評価する。その上で「品質、信頼性も安心。車載用モーターも例外ではなく、生産技術の素養はある。今後それをどう伸ばしていくかが自分の任務」。
永守氏は、10兆円企業を目指すに当たって、低コストを武器に車載用大型モーター市場でのシェア拡大を図ろうとしている。高効率や小型化などを競争軸とするメーカーが多い中、「結局はコスト」(永守氏)と明快だ。「性能で勝っていると言っているメーカーは必ず負ける」(同氏)という考えを、EV用モーターでも踏襲する。
その背景には、EVなどクルマの電動化が今後急激に進み、駆動用モーター需要が急拡大するとの読みがある。そのときまでに同モーターを低コスト供給できる体制を整え、一気に市場を制しようとの戦略だ。
関氏も「世界の自動車市場は今後9000万台前後で推移するだろうが、その半分がEV化すればモーター需要は劇的に増える。そこで勝負するという永守会長の方針には全く同感」と一致している。「そのためには性能・品質・コストでリーズナブルな製品でなくてはならない。(現状でも)価格では顧客に満足してもらっている」(同氏)。戦略的な値付けで顧客は獲得できる。後は十分な収益を確保できるよう生産技術力を高めて原価を作り込むのが、同氏のミッションというわけだ。
同氏は「EVの普及はいずれガンッと増える。少なくとも30%、多ければ40~50%がEV化するだろう。(日本電産としては)それに追いつけるものづくりの能力が必要。そのためには、クルマの性能、伝達力、操舵(そうだ)への影響などが分かるプロを育て、需要増に追従できる足腰を作る」と意気込む。