世界的に厳しくなる燃費・排ガス規制に対応するために、クルマの軽量化は今後も避けて通れない。電気自動車(EV)などの電動車両でも航続距離を伸ばすために、軽量化は重要なテーマになっている。 その対象は車体だけでなく構成部品にも及ぶ。例えば、EVに必須となる電池パック筐体の軽量化だ。高張力鋼板や難燃樹脂を組み合わせる提案が相次いでいる。
ハイテンとアルミ合金、樹脂を組み合わせ
神戸製鋼所は、異種材料で構成するEV向け電池パック筐体の試作品を、クルマの先端技術展「オートモーティブワールド2020」(2020年1月15~17日、東京ビッグサイト)の「クルマの軽量化技術展」で公開した。 電池パック筐体の構成部材として高張力鋼板(ハイテン材)とアルミニウム(Al)合金、樹脂を使い分けることで、オールAl合金製の筐体より軽くしながら、同等の強度を実現した。EVの開発を進める世界の自動車メーカーや電池パックメーカーに今回の試作品を提案し、早期の実用化を目指す。
神戸製鋼の試作品は、米テスラ(Tesla)のEV「モデルS」のリチウムイオン2次電池パックの筐体をベンチマークにして開発した。同筐体はオールAl合金製で、質量は約115kg。神戸製鋼は同筐体の一部を高張力鋼板と樹脂に置き換えることで、質量を99kgまで減らしながら(約14%の軽量化)、同等の強度を実現した(図1)。
Al合金と高張力鋼板、樹脂の使い方を見ると、筐体のフレーム(外枠)は6000系Al合金と引っ張り強さが1.2GPa級の高張力鋼板、底板は同980MPa級の高張力鋼板、電池モジュールを置くトレイは樹脂である(図2)。
モデルSの電池パック筐体は、質量をできるだけ軽くするためにオールAl合金製とした。ただ、側面衝突などの衝撃から電池モジュールを守るため、フレームや底板の板厚を厚くして強度を確保した。そのため筐体の質量は約115kgになった。
これに対して神戸製鋼の試作品は、特に強度が必要な部分に高張力鋼板を、軽さを優先する部分(非構造部材)に樹脂を使い、オールAl合金製のモデルSの筐体と比べて約14%の軽量化と同等の強度を両立した。
異種材料で構成する試作品は、オールAl合金製の筐体に比べるとコストは安くできるが、日産自動車のEV「リーフ」などのオール鋼板製の電池パック筐体よりコストは高くなる。今後、コストをどこまで下げられるかが、実用化のカギになりそうだ。
神戸製鋼は電池パックに限らず、アルミを含めた異種材料を組み合わせた軽量化に力を入れる(別掲記事参照)。同社社長の山口貢氏は1月15日に展示会場内で報道陣の囲み取材に応じ、「鉄とアルミ、これらの接合技術などを1社で手掛ける当社の強みを武器にして、クルマの軽量化に寄与していく」と強調した。
難燃性樹脂で質量を半減
三菱マテリアルは、難燃性樹脂で造ったリチウムイオン2次電池向けパックの蓋部分を、「ネプコン ジャパン 2020」(2020年1月15~17日、東京ビッグサイト)に出展した(図3)。詳細な試算はしていないが、「金属製と比較して質量を半分程度に減らせる可能性がある」(同社)。
展示品では、電池を支える台座に一般的なアルミニウム合金の押し出し材を使い、蓋部分だけを樹脂化した。両者の接合は、メンテナンス性の観点からボルト締結を想定している。
使用した樹脂は、難燃性規格「UL94」の「V-0」を満たしている。さらに、難燃剤にハロゲン系化合物を使わない「ハロゲンフリー」でもある(図4)。具体的な組成は明らかにしないが、油圧シリンダーのシールなどに使われている素材を改質したものだという。特徴は、炎に触れた場合でも変形が少ないことである。
電池パックの樹脂化に向けた課題として、インバーターなどから発生するノイズの遮蔽が挙げられる。特に自動車では、緊急時に災害情報などを得る手段となるAMラジオへの干渉を避けなければならない。開発した難燃性樹脂は、AMラジオ帯(0.5M~1.7MHz)において45dB以上の電波遮蔽特性を実現しており、この問題を防げるという(図5)。